その眼差しはまるで、とても親しい人間に向けたような、優しさに溢れた色をしていたから。


「遅かったね。そんな顔して、何かあった?」

「え、あの……?」


 ……人違い? 私はその人の顔を、まじまじと見てしまう。

 私が顔に困惑の色を浮かべて突っ立っていると、その人はふっと笑って、穏やかな表情で言った。


「なんてね。ごめん。君の登場がナイスタイミングだったからさ。驚いた? そんな事よりも早くこっちへ。どんどん濡れてしまうよ」


 少し色素の薄い髪に、垢抜けた綺麗な顔立ち。身長はそれほど高くはないけれど、小顔でやや細身なせいか、すらりとスタイルの良く見える人だった。

 こんな人がこんな田舎にいるなんて、何だか信じられない。地元の人?

 私は入り口前の狭い屋根の下へ、少し遠慮がちに入っていった。


「僕の名前は星原(ほしはら) 佳(けい)。君は?」


 ケイ……?


「わ、私は……」


 なんだか、名乗りにくい。だって――、


「水沢(みずさわ)……螢(けい)……」


 だって、私もケイだから。