「そうだね。どうなるかは分からないけど、頑張ってみるつもりでいるよ」

「親はすぐに許してくれた?」

「いや、闘ったよ。大変だった。馬鹿なこと言ってるんじゃないとか、現実を見ろとか、散々言われた。僕はちゃんと現実を見て、ちゃんと考えていたのにね」

「それでも、諦めなかったんだね」

「まだ何もしていないのに諦めることなんて出来なかった。だって、夢を叶えられるか叶えられないかなんて、やってみなければ分からない事でしょう? だから、それから沢山バイトをして、勉強も頑張って、毎日へとへとになりながらも説得し続けたんだ。それで何とか今の専門学校に行かせてもらえてる感じかな。親は今でもあまり良く思っていないようだけど」


 実はこっちでも、短期のバイトを始めようと思っているんだ、と彼は笑った。


「そっか……」


 本当に夢を叶えたいと思うのならば、苦労も厭わずに、彼のようにもがけばいいのだ。

 もう子供じゃない。

 一人でどこへだって行ける。

 働いてお金を貯めて、家を出る事だって出来るのだ。それなのに――。

 自分は根性なしだ。


「螢ちゃん……?」


 急に黙り込んでしまった私を覗き込むようにして、佳くんが心配そうに声を掛けてきた。


「あ、ごめん。何でもない」

「そう……?」


 それから間もなくして、本鈴が鳴った。

 本鈴が鳴り止むと、緩やかに照明が落とされ、静かに緞帳(どんちょう)が上がっていった。

 一校に与えられる時間は約一時間。

 劇と劇の間の短い時間には、幕間討論と呼ばれるものが入る。

 これは、役者や演出などが自己紹介をしたり、劇についての観客からの質問に答えたりする時間だ。

 この時間は、次の学校の準備が整うまで続けられる。


「ありがとうございました」


 司会の人が幕間討論を締める。

 次はいよいよ私の母校である清美高校だ。なんだか観客が増えているように感じた。