川辺には無数の蛍が、儚げな光を放って飛び交っている。

まるで夢の中に迷い込んでしまったかのような風景。

それはとても、幻想的だった。


「綺麗だよねぇ。素敵……」


 私もゆっくりと視線を彷徨わせた。


「幼い頃に家族と見ているはずなんだけど、こんなに綺麗だったかなぁ。忘れているものだね」


 佳くんが静かに口を開いた。


「俺も、蛍狩りはかなり久し振りだな」

「そうだね。私も久し振り」

「今日の事は、きっとずっと忘れないよ」

「いい思い出になった?」


 私が佳くんに笑いかける。


「そうだね、ありがとう。二人とも」


 佳くんも柔らかな笑顔で私たちに返した。

 ゴロゴロゴロ……


「あ、やっぱり遠雷だ。さっきも聞こえたような気がしたんだよね」


 私が言い出すのと同時に、俊太が睨むように空を見上げた。


「水辺は危ないよね。僕はもう満足したから、急いで帰ろう」

「雷は心配してたんだよね。やっぱり来たかって感じ。でも珍しく今日は遅い方だよね。良かったよ」

「そうだな。行くか」


 私たちは来た道を戻り始めた。


「ちょっと俊太、速いよ!」


 先頭に俊太。その後ろに、私と佳くんが付いて歩いている。

 俊太は長身だ。少しでも速く歩かれてしまうと、すぐに距離を離されてしまう。


「ああ、悪い……」


 俊太が立ち止まって振り返った。

 私は石に足を取られながらも、なるべく早足で歩いた。


「螢ちゃん、あんまり急ぐと危ないよ」

「大丈夫。ちょっと慣れてきたから」


 やっとの思いで俊太まで辿り着く。


「来た時みたいにゆっくり歩いてよ。俊太の懐中電灯が一番大きいんだから」


 暑い。額から流れ落ちた汗を、手の甲で軽く拭った。


「うるせぇ、察しろ」

「え? 何をですか? 俊太さん、何を?」


 私は耳の後ろに手を添えながら笑った。


「クソ、わざとらしく言いやがって」

「何? 教えてくれないの? じゃあ、佳くん行こう」

「おいこら、待て」

「二人って、本当に仲が良いよねぇ」


 そう言うと、佳くんは突然、私と俊太の手を取って歩きだした。


「おい馬鹿! こんな所で危ねぇよ! ていうか、男が男の手を握るな!」

「大丈夫。両手が塞がっている僕が一番危ないから。ほら、しっかり歩いて」

「あのなぁ……」


 私と佳くんは笑いながら、俊太は溜め息をつきながら、やや早足で自転車まで歩いた。