「最近ぼけっとしてるだろ? どうした?」


 彼は昔から、そういう事にはよく気が付いた。周りに無関心なようで、意外と人のことをよく見ているのだ。
 俊太は、いつもと変わらないような雰囲気で私の返事を待っている。


「……」


 俊太は私が進路のことでずっと悩んでいる事を知らない。彼にも相談してみるべきだろうか。
 返答に困っていると、俊太の方が先に口を開いた。


「ま、無理に答える必要はねぇけど」

「あ、……ほら、佳くんとさ」

「……」

「一緒に劇の練習してたじゃん? それがすごく楽しかったからさ、またやりたいなぁなんて思ってただけだよ。……私、そんなにぼけっとしてたかな?」


 最後は少し茶化しながら口にしたけれど、不自然ではなかっただろうか。
 俊太は椅子から立ち上がると、目の前の私をじっと見つめてきた。


「どうしたの……?」


 俊太は何も言わない。
 彼の切れ長で綺麗な瞳が、心配しているような色で私の姿を映している。
 こんな眼差しを向ける俊太を、私は今までに見たことがない。

 すると俊太は、自分の右手をゆっくりと優しく私の頭の上にのせ、ほんの少し下へ滑らせるとすぐに離した。
 そしてそのまま顔を伏せるようにして、入り口の方へと歩きだす。
 そんな俊太の仕種にどきりとしてしまった。


「暗くなる前に帰ろうぜ。俺、今日はチャリじゃないんだよ」

「う、うん……」


 なに、今の――?


 私は椅子を元の場所へ戻すと、荷物を持って外へ出た。