だけど途中で耐えきれず、近くのドラックストアのトイレに駆け込んだ。
トイレから出ると、気遣わし気に和歌ちゃんが背中を往復撫でてくれる。
「遅れた上に気づかなくてごめんね。悪阻……大丈夫?今日はやっぱり家帰ろうか」
「大丈夫だよ、もう落ち着いたし」
「でも……」
「あのね、颯ちゃんのお友達がやってるイタリアンのお店があるんだけど、そこ行ってみない?」
折角、和歌ちゃんと久しぶりに出掛けるんだから、このまま帰りたくない。
今日は色々報告するつもりだったんだから、少しくらい無理はしたいよ。
私強硬姿勢を察してくれたらしく、和歌ちゃんはしょーがかいなぁ、と腕を組んできた。
「ありがとう。早めに返すようにするから」
逆に、和歌ちゃんが無理をさせたような言い方をさせてしまって、ちょっと反省。
私もありがとうと告げると、小林さんのお店の『Ruhe』に向かった。
途中、颯ちゃんが合流する事と告げると、おおいに喜んでくれた。
重厚なドアを開けると、「いらっしゃいませー」と小林さんの張りのある声が弾むように店内は活気付いていた。
私をみるなり瞠目して、
「梨々子ちゃーん、いらっしゃい!」
小麦色の肌が似合う、太陽のような笑顔で迎え入れられた。
りこの恰好の私を梨々子と認識されてるなんて……。
本当に颯ちゃんはりこを梨々子だと解ってたんだね。
「結婚おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
もう何度言われたか解らないおめでとうも、お互いの親近者から言われると重みが全然違う。
テレて顔が赤らめる私に、相好を崩した。
店内を見渡すと、お客さんでいっぱいになってて、どうしようかと和歌ちゃんと瞳を突き合わせると、
「颯吾から個室で予約もらってるんだ。どーぞ」
先に颯ちゃんが予約を入れてくれていたらしく、奥の個室に通された。
連絡をくれた後、忙しい中気を回してくれたんだ。
感謝しながら案内されたテーブルにつき、メニュー表を開く。