おかげで人の数も増えた。部活の練習に向かうためか、世間一般では春休みなのにも関わらず、制服を着ている人間も何人かいる。

 中でも全力疾走する自転車には要注意だ。あいつら、本当に容赦ない。俺も正直、何度轢かれかかったことか。

 俺は百合を庇うようにしてさりげなく道路側を歩いた。そして緩やかな上りカーブに差し掛かったところで、あるカフェが目に入り、店の前で足を止める。

「ちょっとここで休んでいかないか?」

「はぁ?」

 突然の提案に、百合は聞き間違いを疑ったのかと思うほど素っ頓狂な声をあげた。

「今、公園に行ってもこの時間は子どもがいっぱいで落ち着かねぇって」

 時刻は午後三時過ぎ。さらには春休みだ。自分たちが子どもの頃、放課後や休みの日に矢野公園で散々遊んだように、あそこの人気は今も昔も衰えてはいない。

 ひとりでも、公園に行ってみれば誰か知り合いがいるというのが当たり前だった。

 古くなった遊具はいくつか撤去されたが、昔に比べると、その分芝生のスペースが増えてより広々と遊べるようになっている。あの芝生の上はなかなか走りやすくて気に入っていた。

「そう、かもしれないけど……」

「だったら決まり。時間もあるんだろ? 奢ってやるから」

 歯切れ悪そうに返した百合に、勢いよく畳みかける。強引だとも思えたが、百合は嫌なら嫌だとはっきり言う女だ。

 ケーキ屋に併設されたカフェは、ガラス張りで外からも中がよく見える。いい時間なのに反して、平日だからか今は三組ほど女性客がいるだけで、席は空いていた。

 このカフェが学校の近くにオープンしたのは去年の暮れで、女子の間でも話題になっていたらしい。

 受験前だからって立ち寄れていなかったが、実は百合がこの店を密かに気にしていたのを俺は知っている。なんたってこの店は……。