「寂しいこと言うなよ。卒業して久しぶりの再会でさ、聞けば百合が矢野公園に行くって言うから。コウタと出会った場所だろ?」

 百合が家を出たところで、さも偶然を装って出会ったが、本当はたびたび家に足を運ぼうとしていた。

 電話やLINEは無視されるか素っ気なく返されるのが見えていたから、直接会うしかないと思って何度も家の前まで来ていたんだ。ストーカーか。

 心配なら素直にそう言えばいいのに、いざ会ってみれば軽口ばかり叩き合って。だからいつまでたってもこの関係が変えられず苦労しているんだ。本当に馬鹿だ。

 黙っている百合にもうひと押し。

「俺もコウタとの思い出の場所に……コウタに会いたいんだって」

 嘘。そんなのは嘘だ。百合が心配なだけだ。瞬時に心の中で発言を否定する。

 百合はどこまで本心を読んだのか、それとも額面通り受け取ったからなのか、ちらりと視線を送り、それ以上ついてくるなとは言わなかった。

 しばらくして土手への上り下りのために作られた人工的な白いコンクリートの階段が見えてきた。ここは歩行者と自転車のみ行き来できる。

 ただ、自転車は大通りの方がスピードが出せるので、実際は歩行者がほとんどだ。ジョギングしている人や犬の散歩をしている人なんかもチラホラいる。
 
 今はとくに時季もいい。この暖かさが続けば、今年も早めに桜が開花し、このなだらかな斜面には多くの花見客が陣取るんだろうな。

 川に意識を向けると水面の上を滑るように葉っぱや浮遊物が右から左へと移動していく。川の流れは緩やかだった。端の微妙なスペースには何匹ものカメが上がってきて日向ぼっこをしている。

 のどかな風景だった。