唸りそうになるのを、奥歯をぐっと噛みしめて抑える。なんだよ。この状況は。

 俺の不戦敗なのか? それとも不戦勝?……まったくそんな気はしないが。

 なんたって、生きている者と死んでいる者の間にはどうしたって越えられない壁がある。

 この先もずっとこの壁が俺たちを隔てるのだと思うと、それはとてつもないハンデで、どう頑張ったって、俺はお前とは対等になれないじゃないか。

 そちら側にいるお前を憎く思う。とはいえ、お前と同じ場所には行けない。だから余計に腹立たしいんだ。

 こんな憎しみを抱いていてもいいことなんてない。よくないものだと理解はしている。

 沈みそうな気持ちを奮い立たせるため、俺は目線を上に上げた。淡い白色の雲がかかった空は俺の心とは真逆で穏やかだった。

 遠くに飛行機が飛んでいるのが見える。

「……いい天気だな」

「っていうか、どこまでついてくる気?」

 なにげない一言に、調子を取り戻した百合が噛みついてきて我に返る。百合を見れば、やや気まずそうに視線を逸らし、突っぱねた口調で続ける。

「別についてこなくていいんだけど?」

 さっきまでの痛々しい表情ではなくなったことに安堵すべきか、相変わらずキツイ百合にたじろぐべきか。結果的に俺は笑った。

 百合は今、学校の近くにある公園に向かっている。俺も何度も通った馴染みのある場所だが、俺にとっては百合が間山孝太と出会ったという印象が強い。

『コウタに会いたい』

 百合はそんなことを漏らしていた。公園に行ってどうするのかは知らない。むしろこれといってなにかをするつもりもないのかもしれない。

 ただ、百合をひとりにはさせられず、なんと言われても俺はついていくつもりだ。