「コウタがいなくなったんだって……まだ実感が湧かないよな」

 唐突な――いや、内心ではこの話が出ないわけがないとわかっていたのかもしれないが――話題に百合は肩をピクリと震わせ、うつむき気味になる。

 おかげで俺も同じく緊張してしまう。百合はどんな反応をするだろうか。

「俺、百合から聞くまでコウタが病気だって全然知らなくて……。最後に会ったときもすごく元気そうだったし……」

 窺う言い方なのは、きっと百合にはバレバレだ。百合の切ない表情に胸どころか腹の奥までぎゅっと締めつけられる。罪悪感でだ。

 触れられたくない話だったのかもしれない。今、百合にそんな顔をさせているのは俺なんだ。

「正直、今でも信じられない。体調を崩して病院で診てもらったときにはもう手遅れだなんて、そんなことある? ずっと元気そうにしてたのに」

 珍しく百合が声を荒げる。堪えていた感情を爆発させたかの勢いだ。

『コウタ……病気なんだって』

 百合の口から告げられたときのことを思い出す。今にも泣き出しそうなのを抑え込み、平静を装っていた。俺の前で泣くわけにはいかないと我慢していたんだと思う。

 俺はちらりと百合の顔を見た。今の百合はあのときと同じ表情だ。

「そうだよな。コウタってマジで病院とは無縁で、元気なのが取り柄だったから。予防接種や検診くらいでしか病院に行ったことないって自慢してたもんな」

「馬鹿だよ。本当に馬鹿だ。なんでそうなるまで気づかなかったんだろ」

 小さい声なのに、百合の悲痛な思いが十分に込められていた。

 もしかして病気だと伝えられたときの百合も、こんな顔だったのか。冗談じゃない。中途半端に知らせるくらいなら最後まで隠し通すべきだっただろ。