俺はかつてないほど大きな声をあげた。言葉にもなっていない。雄叫びだ。空に向かって腹の底から出せる声の限りを尽くして叫んだ。

「今……」

「コウタ?」

 間山孝太が後ろを振り返る。百合もなにかを感じたのか、辺りをきょろきょろ見渡していた。

 ふたりとも、俺はここだって!……まだ俺はここにいるから。素直になれ。お前ら、ちゃんと向き合えよ!!

 結果的に間山孝太と百合は再び対面する形になった。ふたりの視線が交わり、間山孝太が呼びかける。

「あのさ、百合」

 話しかけておいて、間山孝太はしばらく目を泳がせ言いよどんだ。「なに?」といつの百合なら急かしそうだが、このときばかりは百合は間山孝太の言葉をじっと待った。

「すげ、今更なんだけど……中三の頃、急に百合に冷たくした時期があっただろ?」

 前回のここでの星見の後の話だ。ずっと百合が気にしていた件だったので百合は顔をわずかに強張らせる。

 そして間山孝太がぱんっと自身の前で手を合わせた。

「ごめん。あのとき仲のよかった友達に、百合との関係を聞かれてさ。付き合ってないって答えたら、百合のことが好きだから協力してくれって言われて……」

 言葉尻は弱かったが、話は読めた。そういえば、中学の卒業式で百合に告白してきた男子がいたって言ってたな。

「そいつに気遣って、百合を突き放す真似をしてごめん。百合はなにも悪くないのに、傷つけてごめんな」

「……いいよ、別に」

 必死さが込められている謝罪に、百合は短く返した。呆れた表情に、間山孝太はまるで捨てられた子犬のようだった。

「それで、その……」

「なに?」

 さらに迷いを見せる間山孝太に今度は百合も容赦しない。間山孝太は百合をまっすぐに見つめた。

「やっぱり花見はしよう」

 突然の提案に目を白黒させたのは百合だけでなく俺もだ。けれど間山孝太は柔らかく笑った。

「弁当持ってさ。場所取りは俺がするから。で、また星も見に来よう。大学生になっても。俺、県立大の方だけど、同じ市内だし」

 これからの予定を語りだす間山孝太に百合は呆気にとられている。そこで間山孝太は静かに付け足す。

「それでふたりでコウタの話もしよう。百合が話したいなら今日みたいに俺が聞くから」