『きみもひとりであそんでいるの?』

 百合が声をかけてくれて、生まれて初めて友達ができた。

 百合と一緒に過ごして、すぐに泣く百合を見て『俺が守ってやらないと』と思うようになっていった。

 そんなときお前が現れたんだ。

 あれは小学校低学年の頃、ちょうどこれくらいの季節だった。春休みに入り、百合と矢野公園へ足を運んでいた。

 そこで遊んでいたクラスの男子が、百合にくだらない言いがかりをつけてきたんだ。

『君島じゃん。なんだよ、お前、学校の友達いないのかよ』

『寂しいやつ』

 今思えば、あいつらは百合が好きだったのかもしれない。そんなちょっかいの出し方だった。でも完全な逆効果で百合は怯えきっていた。

 大きな瞳に涙を溜め、今にも泣き出しそうな表情に、男子たちは面白がってさらに囃し立てようとする。

 頭であれこれ考える前に、俺は男子たちに飛びかかりそうになった。そのとき――

『お前ら、やめろよ!』

 どこからともなく聞こえてきた声に全員の視線が集まる。そこには、百合と同年代の少年がいた。

 見慣れない顔で、体は小さいが目つきがどうも鋭い。

『なんだよ、お前』

 第三者の存在に怯む男子たち。間山孝太はずかずかと彼らに近づき、むしろ詰め寄っていく。

『お前らこそ、なにやってんだ。そいつがなんかしたのか?』

 きっぱりとした言い方に、男子共はしどろもどろに言い訳して散っていた。そして間山孝太の意識がこちらへ向く。

『お前、何年生?』

『えっ、次、三年生』

 突然の質問に百合は律儀に答える。すると間山孝太は白い歯を覗かせ、にかっと笑顔を浮かべた。

『じゃぁ、俺と同じだ。俺、間山孝太。一昨日この近所に引っ越してきて、新学期からそこの小学校に通うんだ』

『コウタ?』

 百合は彼の名前に反応し、目をまん丸くさせた。

『なんだよ?』

 訝しげな間山孝太に対し、ようやく百合にも笑顔が戻る。

『この子もコウタって名前だから。私は、君島百合。助けてくれてありがとう』

『百合にコウタか。よろしくな。俺、空手習ってんだ。だからこっちでの友達第一号としてお前のこと守ってやるよ』