化粧っけは全然ないのに、肌は色白で滑らか。そのアンバランスな雰囲気がどこか危うくて、ただでさえ細いから受験のときは自分よりも彼女の心配をした。

 元々百合は成績も優秀で俺よりはるかに頭もいいし、たくさんのことを知っている。

 その一方で精神的に脆い一面もある。そういう根本的なところは昔から変わっていない。

 そんな彼女もついこの間、高校を卒業し、この春から大学生だ。見慣れていた制服姿が、もう思い出の中だけになるんだな。似合っていたからちょっとだけ寂しい。

 セーラー服の襟先をかすめていた百合の髪に視線を送る。

「俺さ、あまり派手すぎずにって言って茶色に染めてみたんだけど、わかるか、これ?」

 短い髪先をわざと引っ張ってアピールするが、百合はたいして興味なさげに一瞥しただけでなにも言わない。

「百合は、染めたりしねぇの?」

「染める必要ある?」

 間を空けず逆に聞き返されてたじろぐ羽目になるとは。

「いや、だって。校則厳しかったし、大学デビューだって染めるやつ多いからさ。あと車の免許取りに行ったり……」

「大学通うのに車はいらないし、必要性を感じない」

 これまた百合のきっぱりとした口調に跳ね除けられた。さっきからまったく会話が弾む様子がない。

 それでもふたりの歩く方向は一緒で、無言のまま進んでいく。

 ふと、前から来た自転車が大袈裟にベルを鳴らしてその場の沈黙を裂いた。よけるほどでもなかったが、これがタイミングだった。