「あいつは幸せだよ。断言する。百合はコウタを忘れずにいて、笑っていればいいんだ。後悔とか申し訳ない気持ちとかでいたら、あいつ心配して天国に行けないぞ」

 ついに百合の瞳から涙がぽろりと零れ落ちた。一度栓が抜けると、もう止まらない。

 泣き顔を見られたくないからか、うつむく百合。久しぶりに百合の泣き顔を見た。

 俺は大きく息を吐く。

 間山孝太。もう不戦勝だとか、不戦敗だとかどうでもいい。俺の負けだ。完敗だよ。

 にしても、お前はときどき本当にドンピシャなことを言ってくる。実は見えてるんじゃないのか、俺のこと?

 百合の肩に大きな手が添えられる。いつもなら腹を立てるところだが、今は安心できた。

 これが死後というものなのか、俺が特別なのかは知らないが、死んでからも俺の意識はこうして残っていた。

 最初は百合のそばにいられるのが嬉しくもあり、このままの状態でも悪くないと思っていたが、気づいてもらえないのはやはり想像以上にキツイ。
 
 俺が死んで、百合はずっと自分を責めていた。俺がどう言っても、そばで姿をアピールしても意味はない。見えないんだ。声も聞こえない。俺にはなにもできない。

 自分の無力さに絶望した。生きているとき以上に、死んでからも百合のためになにもしてやれない。

 百合は俺が死んでから、けっして泣かなかった。いや、泣けなかったんだ。 

 病気がわかったとき、百合にだけは知られたくないというのが一番だった。なんたって受験生だ。

 下手に動揺させたくない。地元の国立大学の法学部はずっと百合の第一志望だ。

 病院に付き添ってくれた母さんも、同じ考えを示してくれた。百合には黙っておこうと。でも隠し通せるものでもない。