「まぁ、そういうことになるな。しかもシリウスBって元々はシリウスAよりも大きい恒星だったけど、一億二千万年前に寿命を迎えたって言われているんだ。でも、今も光を残して輝いている」

「役目を終えて寿命が尽きても……ずっと一緒なんだね」

 辺りは暗くなっていく一方なのに、百合の表情ははっきりと確認できた。

「……まるで百合とコウタだな」

 その言葉で、百合は弾かれたようにこちらを向いた。今のたとえを百合がどう捉えたのかまでは掴めない。

 胸の中で広がる動揺を必死に抑え込む。暗さで視界は悪くなる一方なのに、百合の肌の白さは周りから浮き上がって際立ち、儚さが増した気がした。

 このまま消えてしまうんじゃないかと不安に駆られるほどに。

 ひんやりとした空気が足元から伝い、俺は一度、唾液を嚥下する。ごくりと喉を鳴らし目線を改めて上にした。

「さっき聞いてきただろ。コウタにも、好きな相手とかいたのかって」

「うん」

 前触れのない話題に、百合はぎこちなくも頷く。なにか言いたそうな百合を待ちはしない。

「知らないって答えたけど、本当は知ってるんだ」

「え?」

「百合だよ」

 間髪を入れずに続けられた言葉に、百合は瞬きひとつせずに硬直した。黒目はまったく揺れない。そこまでの反応は予想外だった。そんなに驚くか?

「あいつは百合が好きだったんだよ。だからきっと病気のことも手遅れになるかもしれないとわかっていて、ギリギリまで気丈に振る舞っていたんだ。百合に心配をかけさせないために」

 憶測ではなく断定で言う。でも、それでいい。当たっているから。

「コウタは自分よりも百合が大切で、誰よりも百合が大好きだったんだ」

 自分の想いではなく、ライバルの気持ちを百合に告げてどうするんだ。本当に馬鹿だ。でも、これはすべて百合を想っての言葉だ。