俺は遠慮なく百合の細い肩の線を見つめた。受験もあったが、この数ヶ月で百合は本当に痩せた。

 冗談ではなくいつ倒れるんじゃないかとひやひやしていた。百合になにかあったら俺は――

「あ、シリウスってあれかな?」

 遠くを指差す百合の目線の先を追えば、南の低い空に一際輝く星があった。空が暗くなりきっていない分、他の星と差別化され、すぐに見つけられた。

 圧倒的存在感を放つ星、シリウスだ。

「たぶん、そうだろ。星座とかまではわかんねぇけど」

「星座を考えた人はすごい想像力の持ち主だよね」

 しみじみと感心した口調の百合に、俺も同意する。どうすれば空の星の並びを見て、具体的に物や人などをあてはめられるのか。まったく見当つかない。

「前にも話したかもしれないけど、シリウスって連星なんだ」

 前にも、というのは以前ここで間山孝太と百合と俺の三人で訪れたときの話だ。

 唐突な星の解説に百合は面食らった様子だ。話すのはコウタとの思い出話じゃないのかって顔に書いてある。そして百合の眉尻が綺麗に下がった。

「あんたって古典はあまり得意じゃないけど、理系科目はどれも得意だもんね」

 人間、得手不得手はあるものだ。苦笑しつつも百合は聞く姿勢を取る。続けていいらしい。

「連星って字のごとく星が連なっているんだよな。肉眼ではほとんどわかんねぇけど、太陽よりも大きな主星シリウスAの回りを、地球と同じくらいの大きさのシリウスBが伴星としてゆっくり公転しているんだ」

「そういえば、そんな話もしてたよね。じゃぁ、今見ているシリウスもふたつの星の光りってこと?」

 百合は記憶を掘り返しつつも、やはり信じられないようだ。たしかにここから肉眼ではどう見ても星はひとつしか確認できない。