あまり定まっていなかった百合の視線が、あるベンチに注がれる。

 丸太を縦に切ったのを置いたような造りで、今は誰も座っていない。百合はそちらに足を向ける。

「……たしか、ここでコウタに出会ったの」

 百合の言葉に俺も記憶を辿る。

「いつだっけ? 小一の頃?」

 百合はおもむろに頷いた。

「そう。矢野公園でひとりで遊んでたら、同じようにひとりでいたコウタと目が合っちゃって、思わず声をかけちゃったんだ」

 気弱で引っ込み思案だったくせに、そういう優しさは小さい頃から持ち合わせていたらしい。

 心配したが、話す百合の顔はどこか清々しい。なので、俺も自分の思い出を振り返ってみる。

 ここは百合と……そして間山孝太とも出会った場所だ。たくさん三人で遊んだ。

「いっぱい遊んだよね。ブランコに乗って靴飛ばしとか。今やったら怒られそう」

「お前、いつも靴を遠くに飛ばしてコウタに取りに行かせてたよな」

 百合としては、最初から取りに行ってもらおうと頼りにしてたわけではなく、遠くに飛ばすことばかりを考えて、後で靴を取りに行くことまでは頭が回っていなかったんだろう。

 片足跳びをして靴を取りに行くにはなかなかの距離だった。それくらいいつも全力だったんだ。

「……いつから、一緒に遊ばなくなったんだっけ?」

 百合のなにげない呟きに、懐かしさに穏やかだった俺の心が瞬時に冷たくなる。百合の声色には寂しさ以上のものが込められていたからだ。

 年齢的なものもあったし、いつまでも異性同士で遊ぶのも難しい。三人でずっと一緒にいられないのは当然だったのかもしれない。

 でも、百合が指している”一緒”というのは三人で、ではなく間山孝太との話だ。

 百合と間山孝太との関係に、距離が決定的に出来た時期があった。