「はー。冷てぇな。ガキの頃、他の男子に泣かされているところを何度も助けてやったのに」

 百合よりも十センチ以上高い身長。今やその差は歴然だが、出会ったときは百合の方が高かった気がする。

「昔の話でしょ」

 自然と見下ろされるのが悔しいのか、百合は口をすぼめ短く返した。

 そう昔の話だ。今の百合からは想像できないが、子どものときはもっと気弱で、男子にちょっと言われると、すぐに泣いていた。

 何度俺が守ってやったことか。

 その頃を思えば、百合はすっかり大人になった。それでいてあどけなさもしっかりと残している。

 染めたことのない黒髪は肩先で切り揃えられ、日の光りを浴びてキラキラと反射している。本人曰く『校則でくくらなくてもいいギリギリのラインの髪の長さ』だそうな。

 こだわりや流行などあまり興味がないのか、そういう適当なところがあるんだよな、百合は。

 よく言えば人に流されず、自分をしっかり持っている。そんなところが俺は好きだ。 

 今の百合の格好も、ボーダーのシャツにレモンイエローのカーディガンを羽織って、デニムのスカートという組み合わせだ。

 正直、お洒落なのかどうかは俺に判別できない。

 でも百合はどんな格好をしていても可愛いと思う。とはいえ、よく考えればそのローファーって、学校指定のものじゃないか?

「お前、なんで卒業しても、それ履いているんだよ」

「いいでしょ? 履きやすいんだもん」

 端的な百合の回答に思わず苦笑する。これは大学に入学しても履いてそうだな。