幼い頃から知っていて、俺は百合にとって一番近い異性だと自負している。そのポジションを、こいつはあっさりと奪うかもしれないんだ。

 それを俺もずっと警戒していた。

 今まではなんとなく予想でしかなかった間山孝太の気持ちが、本人の口からはっきりと伝えられたのだ。とはいえ、俺はどうすれば……。

 葛藤する俺をよそに間山孝太も伝える相手を間違えたと自覚したのか、照れくさそうに頬を掻いた。

『って、お前じゃなくて本人に言えって話だよな』

 まったくだ。でも俺はなにも言わず、間山孝太からふいっと視線を逸らす。

 俺はなんとなく察していたが、当の本人である百合はおそらく間山孝太の気持ちには気付いていない。そういうところ本当に鈍いんだよ、百合は。

『百合にとっては、お前が一番だからな』

 耳に入ってきた言葉に、俺は間山孝太を二度見する。そして間山孝太は俺の背中を軽く叩いてきた。

 まるで励ますような、慰めるかのような力の入れ方だった。

『心配しなくても、俺はお前から百合を奪うつもりはないから』

 なんだよ、それ。俺の心には得体のしれない感情が瞬時に渦巻く。

 馬鹿にしてんのか? 憐れんでんのか? それとも、そうやって俺を理由に百合を諦めようとしてんのか?

 自分でも矛盾を感じた。間山孝太がはっきりと恋敵となった今、その相手が身を引こうとしている。ライバルなら願ったり叶ったりの状況だろ。

 でも喜ぶどころか、腹が立つ一方だ。感情が昂り、さすがに声をあげようとする。しかし、それはすんでのところでせき止められた。

『ごめん、お待たせ! ちょっと電話が長引いちゃって』

 戻ってきた百合に声をかけられ、俺たちの視線は同時に彼女に向いた。おかげでこの話題は終了せざるをえない。

 それから間山孝太が百合本人へはもちろん、俺に対しても彼女への想いを語ることは二度となかった。