そうこうしているうちにレアチーズケーキとコーラも運ばれてきた。一口でガブリといきたくなるのをぐっと堪える。

 幸い、空腹ではない。もしこれが空腹なら数秒でなくなっていたな。

 皿から意識を移し、一度視線を落とす。そして改めて、正面から百合を見つめた。

 少しずつ大好きなチーズケーキを噛みしめて食べる百合は幸せそうで、俺の心も満たされる。よかった。

 しかし、そう思ったのも束の間。

「……コウタにも、好きな相手とかいたのかな?」

 ふとフォークを置いた百合が一呼吸忍ばせた後で、とんでもないことを言ってきた。

 俺は固まるしかない。なんで急にそんな話になるのか。なにか思い当たる節でもあるのか。

 百合は俺の葛藤など知る由もなく、さらに「どう思う?」と無邪気に問いかける。

 尋ねる相手をどう考えても間違えているだろ。

「なんで俺に聞くんだよ。お前が知らないのに、俺が知ってるわけないだろ」

 なにを考えているんだ、百合は。眉間に皺を寄せて百合を見れば、彼女は口をすぼめた。どうやら百合も本気で聞いているわけではないらしい。

「だって男同士だし」

「そんな理由かよ」

 続けて百合はなにげなく補足してくる。

「そう。それで私のいないところでなにか通じていたんじゃないかと思って」

 俺は心が揺す振られるのを感じた。これを動揺とでもいうのか。だって百合は知らないはずだ。

 俺はしばし目を泳がせ、記憶を辿る。そして百合をまっすぐに見つめて、心の中で訴えかける。

 百合だよ。百合、お前なんだよ。好きな相手、なんて。後にも先にも百合だけだ。コウタは、出会ったときから百合しか見ていなかっただろ。

 そうか、百合には伝わっていなかったのか。わかっていたことだ。その証拠に、ホッとしている自分もいる。

 そうだよな、ちゃんと口にしないと伝わらないよな。百合は知らないんだ。