いったい、どうした? 百合は躊躇いを見せてから、小さな声でぼそりと呟く。

「ここ……佐藤さんとも来たの?」

 俺はその名前に瞬時に反応する。

「来てねぇよ!」

「だって、付き合ってたんでしょ?」

 間髪を入れない百合の切り返しに、俺の背中に嫌な汗が伝う。まさか百合からこの話題を振るとは思いもしなかった。

 でも、これはある意味チャンスだ、白黒はっきりさせるという意味で。

「付き合ってない。キャプテンをしてたからマネージャーの佐藤とは色々話す機会が多かったけど、それだけだって。塚本たちが、なんか勝手に言い出したんだよ」

 『さすがはサッカー部のおしどり夫婦』『仲いいよな、羨ましい』『佐藤に振られないようにしろよ』

 そんな小学生並みのからかい文句を部活中以外にも、たとえば休み時間に教室でもサッカー部の連中からよく言われていた。

 元々マネージャーである佐藤美香とは同じクラスというのもあって、気さくによく話していた。

 それが原因なのかは知らないが、佐藤との件でサッカー部が騒ぐのはいつしか定番となり、いじめという雰囲気ではなく、サッカー部の連中がまとまってつるんでいるのは、じゃれ合っている延長だと他のクラスメートたちも感じていたらしい。

 からかい内容を強く否定もせず、部活のこともあってか平然と佐藤と話す態度が余計に、大っぴらにしないだけで、本当はお互いに好きなんだろうという認識になっていた。

 同じクラスの百合も、何度もサッカー部の連中とのやりとりを目の当たりにして、そう思っていたのも無理はない。百合は佐藤とは違うグループだったし、受験もあった。

 その話題を、今になってこのタイミングで百合が切り出した。百合は実情を聞いた今も信じられないという面持ちだ。