「ここのチーズケーキ、めっちゃ美味しいらしいぞ?」

 この発言は効いたらしい。百合の目がきらりと光って顔つきが変わった。

「い、行ったことなかったし、せっかくだから、ね。でも自分の分は自分で払うから」

 借りを作りたくないからなのか、真面目というか。百合らしい。それでも百合の足が店内へと向いたので俺も続く。

 正直、俺はこういう店に入るのは初めてだったので先を行く百合についていく形になる。

 中に入ってみると、外から受ける印象より広く感じた。ケーキの販売スペースもカフェも白の木目調の壁で統一され、木製のインテリアという組み合わせは洗練というよりレトロな雰囲気だ。

 俗に言うアメリカンスタイルらしい。アメリカに行ったことがない俺としてはどこらへんがそうなのかまったく理解できないが。

「すごく甘い香り。いい匂い」

「俺、これだけで胸焼けしそう」

 匂いに対しては、お互いに別々の見解だった。でも百合の声は心なしかはずんでいる気がする。

 ちょうど入れ替わりで空いた奥の席に座ると、水を持ってきた店員がついでに注文を取っていく。

 案の定、百合が選んだのはチーズケーキだった。

 それにしてもチーズケーキひとつにしても色々種類がありすぎる。ベイクドだの、レアだの、スフレだの。

 俺はどれがいいのかさっぱりだが、百合がなにを選ぶのかは見当がついていた。

 さっとメニューに目を通すも、百合に悩む素振りは見られない。

「ベイクドチーズケーキで。飲み物はカフェオレのアイスでお願いします」

 やっぱり、と自分の予想が当たったことに笑みが零れる。

「じゃぁ、俺はレアチーズ。飲み物はコーラで」

「えっ、コーラ?」

「いいだろ、好きなんだから」

 すかさず百合から指摘が入るも、向かい合って座っているからか会話の雰囲気は先ほどの刺々しさやぎこちなさはなくなり、自然なものになる。

 ところが不意に百合の顔が陰り、目が泳ぎ出した。