間山孝太。俺はお前が大っ嫌いだ!
 たとえ直接お前にもう言えないとしても、この気持ちだけは変わらない。
 百合に対する気持ちほどに。


 三月も下旬にさしかかろうとする頃、開花宣言を前に早くも桜らしき花が咲き、ちらほら淡いピンクに色づく木々が目に入る。

 ここ数日、暖かい日が続いた影響らしい。全国でも早めに開花宣言がされるこの県では、卒業式に桜が咲き、入学式には散っているなんてざらにある。

 たしか高校の入学式もそんな感じだったな。

 歩き慣れた川沿いの土手を百合と共に進む。通学路でもあるこの道は、何度も往復した。今さら真新しいものもない。

 ずっと後ろをついていく形だったが、俺は思い切って百合の隣に移動し、並んで歩く。さっきから沈黙が居た堪れない。

 けれど百合はこちらに見向きもしない。足元に視線を落とせば見慣れた彼女のローファーが目に入った。

「……桜、ここは今年もすげぇ人なんだろうな。来週末の連休辺りとか。百合は花見とかする予定はあんの?」

「ない。っていうか、しない」

 白々しい話題にはすげない回答が返ってくる。しかし予想の範囲内だ。

「マジ?って即答かよ。お前には日本人が重んじてきた和の心はないのか」

 ついに百合は鬱陶しげな顔を見せた。やや吊り上がった目は大きく、眼差しには迫力もある。

 そのせいもあってキツそうだとか、冷めていると人には思われやすい。いや、実際に結構キツいときもある。今みたいに。

「なーにが和の心よ、偉そうに。センターで古典が四割しか取れずに足を引っ張ったあんたに言われたくない」

 グサリとなにかが刺さった音が聞こえたのは気のせいか。たしかに百合は現国、古典共に得意でセンターでは国語は九割近く取ったらしい。マジですごい。