ケイコって、いい女だよな。俺にはもったいないよ。
 本気で言ってるんなら、やめとけよ。確かにお前にはもったない。
 ふんっ。けれどどうしようもないんだよ。好きっていう気持ちには逆らえない。
 なにを言ってやがると思うよな。こいつの言葉にはいちいち、余計な飾り付けが施されているんだ。どんなに本音を言っていても、嘘に聞こえることがある。
 お前だってそうだろ? 彼女のことを好きだっていう気持ちに嘘はつけないだろ?
 俺は別に隠すつもりもないよ。
 日曜のフェスには行くのか? 招待されてるんだろ?
 日曜に行われる音楽フェスティバルには、世界中から有名なアーティストも集まってくる。今年でまだ三回目か? 歴史は新しいが、何万って客が集まるんだよ。春先に行われるこのフェスが、俺たちにとって、今のところの目標になっている。真夏のフェスにも出たいし、海外のフェスも目標にはしているが、まずは一歩ずつだ。
 招待っていってもさ、見に来いってだけだからな。お前も来るか? 誘われてなくたって、別に構わないだろ。
 残念だけど俺は、その日は無理なんだよ。バイトがあるんだよ。最後のバイトだ。どんなバイトだと思う? 奴はニヤニヤ笑いながらそう言いやがる。言いたいなら自分から言えよなって思うよ。クイズ形式にする意味がないんだよな。
 興味はないが仕方がない。どんなバイトだよと、一応は聞いてみる。
 日曜のフェスの、会場警備だよ。奴は自慢気にそう答える。そいつは大変だなと俺は感じる。確かにただで楽しめるかも知れないが、あくまでも仕事だろ。自由に騒ぐってことはできないよな。
 それじゃあ向こうで会えるかもな。俺は嫌味でそう言ったんだが、奴は笑顔で、仕事の邪魔をしたら取り押さえてやるからな、なんて言ったよ。
 やっぱりここにいたのね? ちょっといい? 大事な話があるんだけど。
 ドアが開く音は聞こえなかった。足音もなく、突然にその声が聞こえてくる。しかし、誰だって思ったのは一瞬だった。声と口調ですぐに分かる。
 どうしてここが分かったんだ? 俺は間抜けなことしか言えないようだな。
 あんたたちがここで密会してるの、学校中が知ってるのよ。邪魔しちゃ悪いと思って誰も近づかないだけよ。
 密会ってなんだよ! その叫びは心にとめておいた。言葉にすれば言い訳がましいからな。ただ鼻で笑ってみたよ。隣の奴は声を出して笑ってたけどな。気を使ってくれるとは有難い。そんなことを呟きながらだよ。