本当に終わりなんだな。学生じゃあなくなるって、おかしな気分だよ。お前たちはさ、気楽でいいよな。
 いつものように、屋上で奴がそう言った。
 お前だって、自分で望んで働くんだろ? どんな形でもさ、楽しんだもん勝ちなんだよ。お前ならさ、きっとどんな状況でも楽しめるだろ?
 はっ、学生を続ける奴に言われてもな。
 俺たち五人は、きちんと国大入学を決めていた。まぁ、ケンジがいるし、カナエもいる。受からない方が不思議なくらいだ。
 来週だったよな、卒業式? お前たちはどうするんだ? 予定がないならさ、みんなのパーティに参加しろよ。
 卒業式後にみんなで集まって食事をするって、なんだか恥ずかしいよな。俺はそう思っていたが、ケンジはすでに参加をすると言っていたな。俺はまだ、悩んでいたよ。ユウキと二人でって方がいいんだよな。それが本音でもある。
 そういえばさ、日曜のフェスにあの人が出るんだろ? 初参戦でいきなりトリって、凄いよな。
 奴はあの日、俺たちの楽屋に顔を出したんだ。聞き屋にそうしろと言われたらしい。そう言った聞き屋本人は来なかったんだけどな。
 お前たちもさ、いつかあの舞台に立つんだよな。羨ましい限りだよ。
 まぁ、その予定はしているよ。いつになるかは分からないけれどな。
 俺も、立てるかな?
 奴がそんな言葉を言うとは予想外だ。俺は奴の顔をじっと見つめた。
 なんだよ! 俺だって一応はバンドマンなんだぜ。悪いのかよ!
 そういう意味じゃないんだけどな。俺が驚いた理由は別にあるんだ。奴が軽音楽部だからって馬鹿にするはずはない。音楽を楽しむ気持ちは、平等だからな。俺が驚いたのは、奴の言葉に真剣さが帯びていたからだ。本気で立ちたいならきっと立てるさ。言葉にはしなかったが、そんな思いで奴を見つめていたんだ。
 次のライヴとかはどうするんだ? まさかあれで終わりじゃないだろ?
 ありがたいことに俺たちは、レコードデビューまで決まっているんだが、奴にはまだ言っていない。次のライヴは残念ながら決まっていないしな。
 卒業したらもう、こうしてお前と会えなくなるのか。寂しいよな。
 なにを言ってやがるんだよ。いつでも会えるじゃんかよ。お前たち、付き合ってるんだろ?
 奴はケイコと付き合っている。なんでかは知らないが、二人はそういう仲になっていたんだ。まぁ、ケイコの方が奴を好きになったようなんだけどな。女の気持ちっていうのは、ときに宇宙の理解をも超えるんだ。守ってあげたくなるのよと、カナエが言っていた。そういうもんなのかも知れないが、俺はやっぱり、守られるよりも守りたい。