おい、とケンジが言った。俺の顔を見ずに、人集りの一点を見つめながらな。
 来たのか・・・・ 俺はそう言いながら、足を動かした。背後でケイコがなにやら言っていたが、ケンジが対応していた。俺は真っ直ぐ、奴に向かって足を進める。
 どうしたんだ、その顔? 奴の顔は青アザだらけで、血も流れ出ていた。
 俺だってな、やるときはやるんだよ。もうなんの心配はないんだぜ。思いっきり楽しませてくれよな。
 ブサイクな笑顔を見せやがってと、俺は口には出さずに大笑いしたよ。奴もつられて大笑いだった。
 一度は逃げた奴だったが、そのままほっとくのは危険だと感じていたようだ。確かにそうなんだ。追い詰められたチンピラどもがどんな行動をとるかなんて想像すら難しい。追い詰めている相手が聞き屋だと知ったらなおさらだなんだよ。
 けれど奴には勇気がない。チンピラどもとは別れて逃げた先で、怯えていた。そこに現れたのが聞き屋とケイコだ。ケイコは奴が逃げて行く場所に心当たりがあったようなんだ。学校の屋上かって俺は思ったんだが、まさかのその通りだったよ。屋上には顔を出したことのないケイコだったが、奴がそこを憩いの場としていることは知っていたんだな。
 俺はどうすればいいのか迷っていたんだ。だってそうだろ? 聞き屋から追われたら誰だってビビるだろ?
 奴の言葉に、俺はなにも答えなかったよ。
 聞き屋は俺にさ、自分でケリをつけろと言ったんだ。まぁ、当然だよな。ってなわけで、この有様だ。そ言いながら笑う奴を見て、俺は頷いた。
 聞き屋は全てをお見通しだったんだ。ケイコからも話を聞いていたはずだからな。というか、ケイコにもお見通しだったってわけなんだけどな。
 奴はチンピラどもがどこに逃げたのかを知っていたんだよ。聞き屋に話して全てを任せるのもありだが、そうはさせてくれないんだよな。それで奴は、責任を取りに行き、ボコボコにされたってわけだよ。チンピラどものその後は、聞き屋がしっかりとけじめをつけているはずだ。奴の前にはもう、チンピラどもの姿はなくなっている。
 俺たちのライヴは最高に盛り上がったよ。楽しかったってこと以外の記憶は一つだ。会場の中に、ナオミがいた。あいつも来てくれたと知って、俺はさらに楽しい気分になったんだ。