このときすでに横浜駅前にはケンジ以外の三人が集まっていた。ナオミからケイコに連絡がいったんだが、ナオミは先に家に帰っていた。理由は聞いていないが、事情は察知できるよな。
 聞き屋はユウキを連れて駅前に戻ってきた。その場で簡単な事情を話すと、ケイコが私なら力になれるよ。聞き屋にそう言った。初めは危険だと言い張った聞き屋だが、ケイコの本気を止めることなんて誰にも出来ない。仕方なく、ユウキを家に送るという建前で、ヨシオとカナエを置いて出かけていったんだ。
 ユウキを送り届けると、ケイコは聞き屋と一緒に長髪男を探しに行ったようだ。
 俺がユウキから聞いた話はここまでだが、当然ケイコたちの行動には続きがある。俺はそれを、ライヴ直前に知ることになった。
 ユウキとは食事をして、別れたよ。ちゃんと家まで送っていたよ。前日のことがあるからな。そしてライヴのチケットも手渡した。ありがとうって言われただけで、俺は嬉しくなった。やる気が一気に満ちていったよ。
 俺は会場に向かい、すでに始まっていたリハーサルに参加した。
 あれ? なんかあったのか? 幸せそうな音を出すじゃんかよ。ケンジがそう言ったが、相手にはしなかった。その言葉に笑ったみんなのことも同様にな。
 開場時間が近づくと、周辺に人集りができ始めたよ。不思議な感覚だったな。俺たちはさ、普通に人集りを割って歩いていたんだが、誰にも声をかけられなかった。同級生でさえ、気づいていない。
 俺たちは、これまでとは違う世界に進んで行くことを実感したよ。俺たちのライヴを見にくる奴らは、今までの路上ライヴを見るのとはまるで違う気持ちでやってくるんだ。金を払って、俺たちに会いたくてわざわざやってくるんだ。街を歩く俺たちを見たいんじゃない。ステージ上で楽しむ俺たちを見にきているんだよ。なぜだか俺は、人集りをかき分けているときに、そう感じたんだ。