ユウキはチンピラ二人に挟まれ、半ば引きずられるように歩いていたそうだが、周りの騒めきたちは、誰一人として異常事態に目を向けなかった。
 長髪男は、少し離れてついて行ったそうだが、ナオミの目には入らなかったようだ。気がつかなくてよかったと思うよ。ややこしくなるだけだからな。被害も増えていた可能性だってある。
 ナオミはお嬢様だが、頭がいい。お嬢様だからなのか? ユウキの様子を見て、危険を感じたんだ。そしてすぐ、聞き屋に会いに行った。父親に連絡する方が確実のように思えるが、ナオミはこう言っていたよ。お父さんもきっと、ああいうときは聞き屋を頼るってね。そのためにこの街には聞き屋がいるんだとも言っていたよ。たいそうな話だこった。
 後はもう話が早い。聞き屋が動いてユウキを助け出したってわけだ。その間に俺への連絡があったんだけど、なんでもっと早く教えないんだと思ったよ。俺が知ったのは、ユウキが拐われてから数時間も後だったんだ。
 慌てて俺の家にやってきたケンジも、その初動が遅かった。あいつがなにをしていたかって? ケンジはおかしな奴だからな。学校に残り、合唱部の先生とおしゃべりだよ。音楽の話で盛り上がっていたそうだよ。気楽なもんだって一瞬は思ったが、そうじゃないことにはすぐに気がついたよ。ケンジはあれで緊張していたんだ。翌日のライヴを考えれば当然だよな。俺たちの中で、間違いなくケンジが一番目立つからな。まぁ、先生との会話は、ケンジにとっては気分が落ち着くんだとさ。文化祭以来、ケンジは毎日音楽室に顔を出しているんだよ。
 ユウキは車に乗せられ、チンピラどもの溜まり場に連れて行かれたんだ。奴が一緒だったのもそうだが、チンピラどもが間抜けで助かった。
 そこはチンピラどもの中の一人の実家だったんだ。寂れた住まいで、一階が玄関ほどに小さな飲み屋になっている。母親が営んでいたんだ。近所のスケベオヤジたちを標的にな。その日のその時間には、すでに客が来ていた。チンピラどもはユウキを連れて、二階へと上がって行った。店を通る以外に二階へ行く術は、排水溝をよじ登る以外にはなかった。
 部屋の中、ユウキは特に乱暴はされなかったようだ。長髪男がかばってくれたと言っていたが、ユウキがそこらへんのチンピラに簡単に負けるはずはない。ユウキはな、気持ちが強いんだ。弱い心に負けるはずはないんだよ。とは言っても、複数の男に襲われれば敵わない。何事もなくて本当に良かった。
 動き出しの早かった聞き屋は、あっという間にユウキをさらったチンピラどもを見つけ出した。そしてすぐに飲み屋に踏み込み、ユウキを助け出したんだ。
 しかし聞き屋は、考えるってことをしないようだ。衝動だけで動くタイプなんだな。
 たった一人で乗り込んだ聞き屋にできることなんて限りがある。ユウキを助けるだけで精一杯で、チンピラどもは逃げていった。長髪男も一緒にな。