夜が明けた頃、聞き屋が一人で戻ってきた。
 ケイコはどうしたの? カナエがそう聞いた。みんなはケイコを待っていたわけで、聞き屋を待っていたわけじゃなかったんだ。
 今送ってきたところだ。お前たちも早く帰れよ。今日は大事な日なんだろ?
 なんの説明もなしかよ! 俺がそう叫んだ。俺はまだ、事の真相を知らなかったからな。俺だけが、だな。
 問題はほぼ解決だよ。後はあいつがどうするかだな。大丈夫だろ? きっと全て上手くいくはずだから。とりあえずもう帰れ。始発ならとっくに動いている。
 そうするか。なんてケンジが言い、ヨシオとカナエが立ち上がる。俺は納得のいかないまま、三人の後を少し離れてついて行った。そしてそれぞれの家に帰っていった。
 眠気なんてどこかにいってしまった俺は、部屋でひたすらベースを弾いていた。眠らずにじっとしていると、余計なことばかり考えてしまうからな。
 どんな日であっても、俺たちの朝は変わらない。駅前で集まって、学校へ向かうんだ。そこにはちゃんと、ケイコの姿もあったよ。
 昨日はごめんね。と、ケイコが言った。ユウキが元気でよかったね。と、俺に向けて言った。俺は、まだなにも知らないでいたから、その言葉に反応出来なかった。なにがごめんで、なにがどうよかったのかが分からない。
 学校に着くと俺は、真っ直ぐに屋上へと向かった。鍵がかかっていない確信はあったよ。俺を待っているんじゃないかって予感があったからな。
 ドアはやはり、ガッチャっと開いた。
 俺は別に謝らないからな。振り返りもせずに、奴はそう言った。
 一体なんのことなんだよ! 誰も俺には真実を教えてくれない。お前がユウキを襲ったわけじゃないだろ?
 ・・・・そうだよ。まぁ、けじめはつける。俺にだってプライドはあるんだ。お前はさ、今日のライヴを成功させろよな。俺も必ず見に行くからさ。
 奴はずっと、俺に背を向けたままでそう言ったよ。俺は奴の隣に並ぶことなく、引き返していった。