ライヴの前日、俺はユウキと待ち合わせをした。チケットを渡そうとしたんだよ。しかしその日、時間になってもユウキは来なかった。連絡をしても繋がらない。急な用事なのか? 振られたのか? いい気分ではなかったが、俺は馬鹿だから、家に帰ってしまったんだ。
 夜中に突然、ケンジが家にやってきた。物凄く慌てた様子で、うちの両親は怒ることもできずに某然としていた。時刻は十二時を過ぎていたのにな。
 乱暴なチャイムの音と、その後の騒めき、部屋のドアを叩く音。俺は目を覚ました。しかし、目の前のケンジを見ても、なにを言えばいいのか分からなかった。どうしたんだ? くらいは普通言うよな。けれど俺は、おはようなんて言いながら目をこすったんだよ。
 とにかく来いと腕を引っ張られ、俺は寝間着姿で外に出た。両親にはケンジから声をかけていた。ちょっと急用なんで借りていきます。なんて言ってたよ。
 家の前には一台のバイクが止まっていた。二人乗りができる原チャリだ。ケンジにヘルメットを渡され、俺は後ろに座った。
 このバイク、どうしたんだ! 走り出した後、俺は叫んだ。
 聞き屋に借りたんだよ! 俺は免許もないから、捕まったら大変だな! ケンジは真剣に、乱暴な運転をしている。捕まるかもとの覚悟を俺はしていたが、警察は案外と仕事をサボるから助かるよ。俺たちは一台のパトカーとすれ違ったが、見向きもされなかった。まぁ、スピードは出ていたが許容範囲だったしな。ヘルメットもかぶっていた。無免許運転だってことは、外側からは分からないんだよな。どんなに下手くそな運転だとしても。
 俺とケンジは横浜駅前のいつもの場所に向かった。バイクはちょっと離れた映画館の脇に止めたよ。そこがそのバイクの定位置らしかったからな。
 走って辿り着いた俺たちを待っていたのは、ヨシオとカナエだった。二人は聞き屋の定位置に腰を下ろしていた。