結果として、俺たちの初ライヴは大成功だった。まぁ、当然だよな。あの人のお膳立てがあったんだから。
 けれどまぁ、ちょっとした事件はつきものなんだ。チケットは完売だった。俺たちは頂いた三百枚を最初は六十枚ずつ分けたんだが、横浜駅前で路上ライヴをしたら、その場で半分売れてしまったよ。残りがノルマってわけだが、家族や友達に配り、気がつけば残りは二枚だ。一枚は長髪男にあげたが、最後の一枚がどうしても渡せなかったんだ。
 ユウキはちょっとばかり遠くの高校に通っていた。どういうわけか女子サッカーにはまってしまったんだよ。女子サッカー部のある学校なんて少ないからな、しかもユウキは強豪校を望んでいた。少しくらい遠くても問題はなかった。まぁ、ユウキにとってはだ。俺にとっては大問題だよ。付き合っているわけじゃないが、会えない時間が多いと辛いんだ。ほんの少しでも顔を見れていた中学時代が懐かしい。
 ユウキは部活に大忙しで、俺はバイトとバンドで忙しかった。けれど俺は、連絡だけは取り続け、月に一度は顔を合わせていたんだよ。
 奴はそのことを知っていたんだ。けれどまぁ、直接奴が悪いわけじゃないんだが、見返りも受けているし、その後の行動には感謝もしている。しかし、きっかけを作ったのはあいつなんだ。全く面倒な奴だよ。
 奴っていうのはご存知の長髪男なんだが、俺がユウキと一緒にいる姿を、二年前から見ていて、その関係性も知っていたそうだ。誰に聞いたのかは知らないがな。まぁ、隠してもいなかったから、知っている誰かがいても不思議じゃないんだよ。
 奴が付き合いを始めていた連中は、諦めが悪かった。というか、奴の行動を勘違いして近づいてきたんだよ。ナオミの名前を使ってライヴハウスや音楽スタジオでなにやら文句を言っている奴の姿は、はたから見ればただの脅しだよな。理不尽に暴れているようにしか見えないよな。しかも奴は、堂々とナオミの父親の名前まで叫んでいたんだ。チンピラからすれば、金儲けのチャンスに感じられたんだろうな。
 チンピラなんて、所詮はチンピラで、少しも役には立たなかったんだけどな。長髪男から聞いた情報でナオミの父親関係を脅そうとしたが、格が違う。相手になんてされず、長髪男を痛めつけての腹いせが精一杯だったようだ。奴はたまに、顔に痣をつけていたが、そういう理由だったんだ。本人は電柱にぶつかったとかわけのわからないことを言っていたけれどな。奴もバイトをしていたようだが、そのほとんどを巻き上げられていたことも後で知ったよ。
 俺たちの初ライヴを潰したかったのは、長髪男じゃなく、チンピラたちだったんだ。金が手に入らないなら、結局は腹いせにってことなんだよ。まぁ、俺たちからチケットを巻き上げる計画もあったようだが、聞き屋が事前に阻止していたらしい。聞き屋はさ、あれでも情報には強いからな。
 けれどまさか、ユウキを狙うとは誰も予想していなかった。