俺たちのライヴは、その時点ですでに決定していた。ケンジさえ知らなかった。あの人が勝手にスケジュールを押さえてくれたんだ。元々はあの人がシークレットライヴ用に仮押さえをしていたらしい。それをちょうどいいじゃんかと、譲ってくれた。
 大量にチケットを渡され、好きにしていいぞと言われた。どういう意味だが困惑していると、あの人はこう言った。とりあえずここには千三百人入ることができる。残りは大人たちが捌いてくれるから心配するな。会場代もいらないとさ。ただし、ギャラはそのチケット三百枚だけだ。好きなように使えばいい。定価で売るのもいいし、タダでくれてやってもいい。自由だよ。まぁ、お前らなら簡単に捌けるんじゃないか? 駅前で歌えばいいだけだ。
 ナオミからの呼び出しで、俺たちはあの人に会うため、チッタに向かった。その日はあの人のライヴがあり、俺たちはそこに招待されたんだ。聞き屋も一緒に来るはずだったんだが、急な仕事で来られなくなった。残念だよな。最高のライヴだったのにさ。
 あの人はそこで、俺たちの宣伝をしてくれた。絶対に損はないから見にこいよなと言っていた。そして公演後、チケットは一気に数百枚売れたんだ。どうなっているんだこの世の中は? そんなことを感じたよ。
 お前たちのおかげで俺はお咎めなしだ。感謝するってことに決めたよ。
 長髪男はいつものように屋上へと俺を誘い、タバコを吸った。
 ここはもう危険だろ? 他を探したらどうだ?
 それは違うぞ。ここは今、これまで以上に安全なんだよ。お前たちが合鍵を作っていたからな。俺がもう一つ持っているとは夢にも思っていないだろ? 俺はたまたま通りがかり、鍵が開いていた屋上でタバコを吸っていただけだ。どういうわけかあの先公、俺がタバコを吸っていたことは誰にも言わなかったんだけどな。案外、いい奴なのかも。キモいけど。
 なんて言って奴は笑っていたが、俺は真相を知っているんだ。あの日の夕方、あいつは先生の前で涙ながらに謝っていた。土下座までしてな。どうしてそんなことをするのか理解出来ないが、奴はこの高校じゃ珍しい就職組だからな。内定を貰っていたようだし、取り消されたくはなかったんだよ、きっと。