当日の朝、長髪男が例のように屋上に来てタバコを吹かしていたらしい。俺たちの機材は、シートで隠してある。楽器の一部は放送室にも置いておいた。
 奴は馬鹿だから、普段はそこにないシートの存在になんか気がついていなかったよ。けれどな、馬鹿なのは俺たちも一緒だったってわけだ。俺たちはその機材を、屋上の影に隠したつもりだったんだが、そこはさ、音楽室のある場所からからは丸見えだったんだよ。まぁ、シートが乗せてあるから、そこになにがあるのかまでは分からないが、普段はない物があるっていうのはおかしいからな。先生はそれを、当日の朝に見つけたんだ。
 音楽室の奥の楽器置き場が、先生にとっての憩いの場だった。窓の外を見ると、見慣れないシートがある。確認しようとの責任感くらいそりゃああるよな。木札のついた鍵を持って、屋上へと向かった。
 屋上のドアが、ガチャっと開く。奴は馬鹿だから、先生に向かって、タケシもここが好きだよな。なんだかんだでよく来るよな。振り返りもせずにそう言ったそうだ。
 誰がタケシなんだ? こんな所でなにしている? ここは鍵がかかっていたはずだろ? 生徒は立ち入り禁止だぞ。
 その声にまず、奴は驚くよな。うわぁ! マジかよ・・・・ なんて固まっていたんだろうな。
 タバコか? そんなの身体に毒なだけだぞ!
 うるせぇ! 奴はそう言って、火のついたままのタバコを、火を向けて先生に投げつけた。
 熱っ! 投げられたタバコは見事に命中した。先生の額が、焼けた。
 慌てる先生の隙を見て、奴は逃げた。そんな状況で、待てぇの声に従う奴なんていないよな。
 全く、困った奴だな。そんなことを呟きながら、先生はシートの元へと向かっていく。そっと捲り、中身を確認する。ニヤッと頬を緩ませ、あいつらか・・・・ そう言ったんだ。