新監督の妹が、海辺の街の海軍兵士と結婚をした。その関係者からの紹介で、わざわざその大会のためだけにホームステイさせていた。
 外国人は二人いた。ピッチャーとキャッチャーだ。ピッチャーは小学生とは思えないスピードの球を投げる。キャッチャーはどんな球でも打つスラッガーだ。準決勝までは、二人だけで野球をしていたと言っても過言ではない。甲子園で大活躍した後輩も、まるで出番がなかった。
 しかし、俺達はそんな奴に黙って敗けを宣言したりはしない。というか、とても燃えたよ。外国人が悪いとは思わないが、そのやり方が気に入らない。新監督は、二人の家族に金を払っている。二人はそれを承知で野球をしている。
 ケンジはこういう状況では普段以上に力を発揮するんだ。
 しかし、身体には限界がある。頑張りすぎたケンジは、途中で肩を痛めてしまった。その後はケイコが奮闘した。試合途中には色々な事件があったんだが、とにかく俺達は勝ったんだ。甲子園の後輩もそれなりに頑張ってはいたが、俺たちの前では力不足だった。まぁ、あいつが必死になっていたのには、勝負とは別の問題があったんだけどな。
 甲子園のあいつは、俺たちのチームに入った一つ下の女子のことが好きだったんだ。野球が上手な方じゃなく、全くの素人の方をだよ。
 残念なことに、その子はケンジのことが好きだったんだ。っていうか、もう一人の子もそうだった。二人共、ケンジと一緒にいたくてチームに入ったんだよ。
 この年齢の恋っていうのは、一方的な片想いが多く、大抵はそれで満足するもんなんだ。二人共、そんな感じだった。ケンジのことが好きだっていうのはみえみえだったが、一緒にいるだけで満足をしていた。
 ケンジは二人の気持ちに気付いてはいたが、ごく普通に接していた。特別扱いはせず、避けたりもしなかった。そんなケンジの態度に、二人はさらに好感を持っていたようだ。
 しかし、甲子園のあいつは違っていた。素人の子を自分のものにしたく考えていたようだ。まだ小学生だっていうのに、ませたガキだよ。
 甲子園のあいつだってそれほどの馬鹿じゃない。自分の好きな子が、自分を見てくれていないことは分かっていたようだ。ケンジに恋していることを知り、嫉妬心が爆発した。
 絶対に負けたくないっていう思いが強すぎた。甲子園のあいつは、かなりの乱暴なプレイで好きな子を怪我させてしまったんだ。足首の捻挫し、脛の辺りから血を流した。ケンジは本気で怒っていたよ。乱闘騒ぎになるんじゃないかと冷や汗をかいたくらいだからな。
 結局そのプレイが勝敗を決めたともいえた。甲子園のあいつは、その事件をきっかけにプレイの精彩を欠き、それを見ていた外国人までやる気をなくしてしまった。さすがにレディーファーストの国の子供だ。女子を怪我させてまで勝ちたいとは思えなかったようだ。映画の世界ではスポーツが得意なだけで女子にも乱暴な奴らが多いが、現実は必ずしもそうじゃないと知ったよ。外国人に対する偏見はよくないってこともな。
 古巣のチームが低迷している間に、俺達は勝ち越したんだ。それまではゼロゼロだった。ケンジが肩を痛めてファーストにまわっていたから、相手にとってはチャンスだったはずなんだ。ケイコは必死だった。やる気をなくしたあいつらには決して打てない球を投げていた。
 そのまま勝ち逃げっていうのもありだったが、あいつらは最終回になり、やる気を取り戻した。そのきっかけは、素人の子だったんだよな。