夏休み中、俺たちはとにかく大忙しだった。国大に入るための勉強をしながら、曲作りと練習に励んだ。俺はバイトもしていたしな。充実はしていたんだが、ライヴができないっていうのは苦しいよな。こう言っちゃなんだが、俺たちが路上ライヴをできなくなったのも、ナオミの父親が関係してるって考えたほどだよ。ナオミ自身は関与を否定しているし、長髪男にそこまではできない。娘の哀しみを誤解した父親がって可能性はあり得るだろ?
 最後の文化祭くらい出てみるか? ケンジがそう言った。
 無理だと思うけどな。俺はそう言ったよ。
 ナオミだってもう意地悪はしないだろ?
 しないだろうな。けどさ、今年から軽音部の部長はあの長髪男だからな。まぁまず、無理だろうな。
 俺が頼んでもか?
 ケンジが頼んでもだよ。
 私が頼んでみようか? そう言ったのはケイコだった。今年もまた同じクラスなんだよね。
 クラス替えをいくらしても、俺は一人きりだった。まぁ、その分新しい友達が増えるのはいいことなんだけどな。三年になり、ケンジとヨシオは同じクラスになった。カナエはケイコと一緒だし、そのクラスには長髪男以外に、ナオミもユリちゃんもいるんだよ。まぁ間違いなく、ナオミの仕業だな。俺も混ぜてくれっていうんだよ。
 それならさ、いつかのあれ、実行してみるか? タケシが言ってただろ? 屋上で演ろうってさ。
 ケンジはそう言ったが、俺はそんなこと言ってないんだよ。屋上で演ったら楽しいだろうな的なことは言ったことがあるけれどな。
 けれどその意見には賛成だった。俺はこのとき初めて、長髪男が屋上の鍵を持っていることをみんなに知らせた。それを盗んで合鍵を作ろう。それで決まりだった。文化祭の最終日、昼過ぎの決行だ。しっかりとした計画があれば、事は順調に運ぶもんなんだ。
 俺は長髪男がいつもどこに鍵を隠しているのかを知っている。上着のポケットだ。体育の授業では教室に置いていくからな、チャンスは十分だ。ケイコがうまくやってくれることになった。体育の授業を見学するのは、男子よりも女子だと自然だからな。合鍵屋は商店街に並んでいる。あっという間に作戦終了だったよ。