俺は兄貴の彼女のナオミに連絡を取った。
 前に言ってただろ? 有名なアーティストの知り合いがいるってさ。ちょっとばかり相談させて欲しいんだけどさ。
 俺はいきなり、そう言った。兄貴の電話を借りてな。
 あんたさ、まずは挨拶でしょ? それから理由を言ってくれないと困るのよね。
 俺はざっと説明をしたよ。俺がバンドをやってるってことは兄貴も知っていたから当然ナオミも知っている。しかし、どんな活動をしているとか、その状況なんて知りっこなかった。俺の言葉に、ナオミは驚いていた。
 そのバンドのことは噂で聞いてるわよ。すっごい評判じゃないのよ。あんたのバンドだったの?
 ナオミは電話越しでも伝わるほどに興奮していた。
 俺のってわけじゃないけどな。俺たちの、だよ。
 彼を紹介するのはいいけど、それでどうなるかは分からないわよ。あんたの話が本当ならね、そのナオミって子、私にも心当たり当たるのよ。同じ名前だから覚えているけど、おじいさんが元総理大臣で、その娘が皇族関係の誰かと結婚してできた娘っていう噂よ。とにかく物凄い家の子ってことよ。本気になれば、ならなくてもかな? バンドを一つ潰すのなんて簡単なことよ。ビートルズくらいの大物だとしても、一捻りよ。
 だから言ってるだろと、俺は言ったよ。ナオミは直接は関係ないってな。その名前を利用されただけだ。とはいっても、ナオミがそんなに有名だったとは驚きだ。見た目は最高だし、地位も名誉もあるのか。相性だって悪くないしな。好きになればよかったか? なんてな。そうはいかないのが人の心ってやつなんだよ。
 とにかくさ、俺たちはライヴがしたいんだ。しなくちゃならないんだよ。なんとか相談してくれよな。そう言って電話を切ったよ。ナオミは小声で、仕方ないわねぇ、なんて言っていた。