よう! お前が自分からやって来るなんて、珍しいな。
 まぁな。用がなければ俺はここには来ないよ。
 俺は奴の隣で、そう言った。鍵かけないといつかバレちまうぞ。
 まぁ、それでもいいんじゃないか? いつまでも俺が独り占めするには、ここは広すぎるからな。休み時間くらいさ、みんなに開放すればいいんだ。きっとみんな、大喜びだよな。
 そいつはいい案だけど、そうなるとタバコなんて吸えなくなるぞ。まぁ、その方がいいか?
 ふんっ、そんなことを言いに来たのか? どうせ・・・・ 見当はついているんだけどな。
 まぁ、そういうことだよ。お前だったとはな。ショックというか、納得というか、おかしな気分だ。
 俺はさ、お前たちが嫌いなんだよ。ケンジはいつだって俺を見下してやがる。お前だってそうだろ? 軽音部なんて、お前らと比べなくても最低だ。部活なんて、所詮は遊びだからな。
 そんなことはないだろ? 俺たちだって、そこまでは思っちゃいないよ。
 よくいうよな。お前らのライヴ見たけどさ、凄いよな。あれならあっという間にデビューだよ。そう思うとさ、悔しいだろ? だから邪魔してやってるんだ。お前だって、順調過ぎるより楽しいだろ? 俺のおかげだぜ。お前らがものすごい勢いで成長をしているのはな。
 なんだよ、それ。意味分かんねぇよ! いつからなんだ? 俺たちのライヴなんて、最近始めたばかりだぞ。
 キッカケはナオミだな。文化祭に参加させるなってあいつが言っただろ? 実際には聞いていないが、そんな感じだったんだ。俺は最初、本気でお前たちを文化祭に誘うつもりだったんだぜ。けれどさ、ナオミがお前たちを締め出したことでさ、こっちの方が楽しいんじゃないかって思ったんだ。ライヴハウスにはさ、ナオミの名前を出しただけだよ。意外に簡単だったんで驚いたくらいだ。あの頃はまだ、ナオミとも仲はよくなかったからな。今年に入ってさ、同じクラスになったときは嬉しかったよ。これで堂々とナオミの力を利用できるからな。
 なんだよ、それ? お前さ、想像以上につまらない奴だな。そんなことして、楽しいのか?
 どうだろうな。まぁ、お前たちが苦しんでいる姿を見るのは楽しいと思ったんだが、お前たちさ、全く苦しまないだもんだ。正直参ったよ。しかもさ、ヨシオの家でのガレージライヴ、あれにも驚いた。俺はもうさ、お前たちに嫌がらせするしか楽しみがないんだ。これからも続けるつもりだからな。覚悟しておけよな。
 おかしな言い分だったが、俺は文句を言わなかった。好きにすればいいさ。そう言い、出て行っただけだ。
 俺たちには、俺たちにできることをするしかないんだ。横浜駅前のライヴをとにかくこなしていく。そして、いつか訪れるチャンスを待っていた。