金曜のあの後、どこにいたんだ?
 長髪男がそう言った。朝から捕まるのは久し振りで、ちょっと気分が沈んでしまう。
 いつも通りだよ。俺たちがどこでなにやってるか、聞いてるんだろ? たまには見に来ればいいじゃんか?
 俺がそう言うと、長髪男は一瞬だけ笑顔になったような気がした。けれどすぐ、しかめっ面でこう言った。
 お前たちには興味ねぇよ。酔っ払い相手の余興なんて、クソだよ。
 それって、見に来たってことだよな?
 俺は余計なことを言ってしまったと思ったよ。奴は、俺から視線を逸らし、なんのことだかな。そう呟いたんだ。
 聞き屋の助言を受け入れ、俺たちは演奏時間を少し早めた。七時半から集まり、八時にはスタートさせた。
 客層が変わると、盛り上がり方は変わる。学生や酔っ払いじゃない会社員の反応は、とても素直だった。最初はなんの騒ぎかと近づいて来るが、興味がなければ立ち去って行く。その代わり、興味を持てば大いに楽しんでくれるんだ。その場で踊り狂う奴も多くいた。俺たちは確実に人気を得ていたんだ。
 演奏が終わると、声をかけられることもあった。決まって聞かれるのは二つだよ。音源はあるのかと、今度どこでライヴをするのかってことだ。俺はいつも返事に困ったよ。音源はないし、ライヴの予定もない。毎週ここにいる。それだけしか答えられなかった。知名度は上がっても、広める術に困っていた。
 ライヴハウスへの出演は、この時点でも断られ続けていた。理由は教えてくれないが、ナオミの仕業としか考えられない。音楽スタジオでレコーディングをしようかとも考えたが、予約がいっぱいで三年先まで空いていない。なんていうあからさまな嘘までつかれたよ。