ヨシオの父親は、とてつもなく厳しかった。野球に関しては素人だったが、教えることが上手で、しかも熱心な勉強家でもある。俺の父親とは大違いだ。平日の放課後にも練習をしていた。サラリーマンじゃない父親って、格好いいなって思ったよ。
 俺達はみるみる上達していったよ。もともと素質があった連中と、やる気に満ちた連中しかいないんだ。土日の練習だけで満足し、強豪チームを気取っている連中とは違うってことだ。
 ヨシオの父親は、あちこちのチームに会いに行き、練習試合を組んでくれた。新監督率いる古巣のチームにも掛け合ったようだが、断られたらしい。俺達の噂は町を飛び出していたからな。なんせヨシオの父親が探してくる練習試合の相手は、市外はもちろん、他県からもやってくる。どういう繋がりがあったのか、強豪と呼ばれるチームも多く混ざっていた。
 古巣のチームとはいずれ大会で当たるんだから、わざわざ練習試合をしたいとは俺もケンジも思っていなかった。他の連中も同じだ。早めに実力を見せつけてしまうと、本番で逃げ出しかねないからな。あの監督ならそうしそうだよ。現にちょっとしたズルもしている。
 俺達は、古巣のチームが毎年出場している大会にエントリーをした。決勝で当たれば面白いなと俺は思ったが、それだと古巣のチームが途中で敗退する危険もある。初戦で当たりたいと、ケンジは言っていたよ。
 結局俺達は、組み合わせにより、準決勝まで進まなくてはならなくなった。練習試合では負け知らずと言っても、大会ともなるとそう簡単にはいかない。相手も本気だし、なんせ俺達は警戒されていた。練習試合のときにはどのチームも俺達を甘く見ていた。負けるわけがないと思っていたんだ。ちょっといいプレイをしても、たまたまだって感じていた。点を取られても、すぐに取り返せる。そんな気持ちで挑んでくる奴等に、俺たちが負けるはずもない。
 しかし、実力がどうとかをいう前に、本気でくる相手は馬鹿にできない。俺達は常に本気でそんな相手と向かい合った。
 九人ちょうどしかいない俺達は、疲労が溜まる一方だった。ピッチャーはケイコとケンジが交代でやっていた。俺達は強くなったとはいえ、所詮は駆け出しだ。本気でぶつかってくる相手には、そう簡単には勝てなかった。それでもなんとか勝ちを重ね、準決勝まで辿り着いたが、誰もがボロボロの身体になっていた。
 こうして迎えた準決勝の相手は、古巣のチームだった。あいつらは確かに強かったが、俺達にビビり、助っ人を用意していたんだよ。それも、野球の本場から連れてきた外国人をだ。
 まったく、イヤになるよな。