俺たちの駅前ライヴは、静かに始まった。週末の十一時、酔っ払いたちが騒ぎ始める時間だった。立ち止まる奴なんて、一人もいなかったよ。酔っ払いたちに絡まれることもなかった。聞き屋の心配は無意味だった。警察になんて頼らなくても、騒ぎすら起きなければ問題ないんだ。
 まぁ、初日はこんなもんだ。この時間だしな。もっと早い時間だと、練習にならないだろ? しばらくはこの時間を楽しみな。様子を見て、時間を変えればいい。けれどそのときは覚悟をしておけよ。そうなったとき、お前たちはもう、後戻りが出来なくなる。
 なにを言っているのかは意味不明だったが、ケンジだけは頷き、分かっているよと答えていた。
 俺たちは、毎週末の土日に演奏をした。酔っ払いたちは、次第に足を止めることが増え、曲間に声をかけてくることもあった。誰々の曲を演奏しろなんて言われても分からない。まぁ、ヨシオだけはその曲を知っていて、メロディを奏でる。すると少しは盛り上がるんだ。なんとなくの雰囲気でケイコとカナエが音を重ねる。俺も必死についていった。ケンジはヨシオが奏でるメロディに乗せてハミングをする。後から聞いた本物とは違っていたが、それなりに受けていたよ。他人の曲を演奏するのも、楽しいもんだって気がついた。
 文化祭の日も、俺たちは駅前で演奏していた。長髪男は本当に俺たちのことをナオミに話したそうだ。俺はナオミに、本気なの? そう聞かれたよ。悪いけど、興味はないと言っといた。するとナオミは、よかった、先生に迷惑かけるの、嫌なんだよね。そう言ったんだよ。どっちの意味なのか、俺には分からなかったよ。
 評判っていうのは、上がるときには一気に上がるが、止まっていると、抜け出すことに時間がかかるんだよな。酔っ払いたちからのリクエストに応えることは、確かに勉強にはなったが、俺たちを停滞させることにも繋がってしまったんだ。
 それに気がついてからは、リクエストに応えることはしなくなった。まぁ、その代わりにカバー曲はいくつか演奏している。自分たちのカラーに合わせて、自分たちの意思で演奏をしたんだよ。するとようやく、俺たちは一線を超え始めたんだ。