なにするんだよ! 俺がそう言うと、聞き屋は笑った。お前たちが今やってることはさ、これと同じなんだ。けれどどうだ? ここじゃあちょっとした有名人の俺だって、こんなことをすりゃあ冷たい視線を浴びるんだ。お前たちはそうじゃない。近所の知り合いだからといってな、聞き耳を立ててくれるってことは、凄いことなんだよ。
 聞き屋の言っていることは、あまり理解できなかったよ。ギターを失った聞き屋は、今ではここで歌を歌わなくなっていたが、以前は歌っていたんだ。評判だって悪くはなかった。立ち止まる誰かは大勢いたんだ。
 まぁ、聞き屋はショックを受けていたのかも知れないな。ギターを失ったばかりだったし、あの人はデビューを果たして一気に有名になった。多少頭がイカれるのも無理はない。ってな風にこのときは感じていたんだが、真実はちょっと違っていたよ。聞き屋は喜んでいたんだ。ギターは失ったわけじゃなく、あの人に譲ったんだよ。あの人の活躍を一番喜んでいるのは、聞き屋だったりする。
 なんだかさ、聞き屋って言うより、話屋だな。俺がそう言うと、聞き屋は俺の両肩を掴んで、そうなんだよ。本当の俺は誰かの話を聞くより、話をしている方が好きなんだ。って言ったんだ。
 俺はもう帰るよと、聞き屋の手を振り払った。また遊びに来いよな。聞き屋はそう言ったが、俺は返事をしなかったよ。いつかの聞き屋のように、背を向けたまま手を上げて振っただけだ。
 その後、俺たちのガレージライヴは、聞き屋の占い通り大変なことになってしまった。近所の人たちだけでなく、いつの間にか増えていた観客に、警察が動いてしまったんだ。