聞き屋・・・・ のおっさんじゃん! 思わず叫んでしまった。振り向いた先にいるんだ。驚いて当然だろ? 俺は本気で、聞き屋はずっとそこに座っていると信じていたんだからな。まぁケンジの話やら、噂の大活躍が事実なら、じっとしているはずはないんだが、俺が知り合ってからの聞き屋は、俺がそこを通る度にそこにいたんだ。俺のような勘違いは多いはずだよ。
 あまり大きな声を出すなよ! ってか、おっさんって言うな! そう言って聞き屋は、俺の頭を引っ叩いた。お前って、叩きやすい頭しているな。そう付け加えたよ。
 こんなとこでなにしているんだよ。仕事はいいのか?
 俺はこれでも学生なんだぞ。聞き屋っていってもな、あれは仕事とは違うんだ。まぁ報酬はたまにいただいているんだがな。せっかくこうして出会ったのにさ、このまま帰るってことはないだろ? ちょっと寄っていけよ。
 俺はJR側の西口を歩いていたんだ。そっちにアルバイト先があったからな。駅からはちょっと離れているが、歩いていける距離だよ。ちっちゃなピザ屋だ。配達もやっていたんだ。俺は入学と同時に免許を取っていたからな。春休み生まれっていうのは、こういうときには役に立つ。入学式の前に、原チャの免許を取っていたんだ。アルバイトをするための投資だ。免許代だけだったからお年玉で十分に足りたよ。まぁ、自分の原チャはいまだに手に入れていないんだけどな。いつかは欲しいんだが、いつになることやらな。どうせなら大きなバイクも欲しいし、車だって必要になる。俺はな、自分たちの機材を積んだ車を交代で運転して、世界中を旅して回りたいんだよ。演奏をしながらな。
 アルバイトとはご苦労だな。学生だって働くのはいいことだ。お前は偉いよな。
 気がつくと、いつもの西口まで歩いて来ていた。そしていつもの定位置にしゃがみ込むと、聞き屋はそう言ったんだよ。