二年に進級しても、俺は一人ぼっちだ。ケンジも一人だった。ヨシオとカナエは同じクラスになり、ケイコとナオミとユリちゃんが同じクラスだった。しかもそこには、長髪男までいたんだ。俺たちの人生が、加速し始めた。
 ライヴハウスには出られないと知った俺たちは、まずは手始めにヨシオの家のガレージを掃除し、道行く誰かに向けてのライヴを開始した。それはヨシオのアイディアだったんだ。外国ではそんな場所で練習をし、人気を広げるバンドも多いようだよ。日本じゃまず、難しいな。騒音問題もそうだが、楽器を置けるスペースがあるガレージを持つ家は、少ないんだ。あったとしても、車がそのスペースを邪魔している。
 俺たちはそれぞれの方法で金を工面し、路上ライヴに必要な機材を揃えた。そんなに立派なものではなかったが、それなりに音は出る。俺は大満足だったよ。ヨシオは少し不満そうだったが、まぁ、今はこんなもんだよね。馬鹿にしやがってと思ったが、一緒になって笑ってしまった。そうなんだよ。今の俺たちは、そんなもんだったんだ。
 ガレージでの演奏は、ケイコの家の地下室とはまるで違っていた。音が全部、外に出て行くんだ。それって感動だったよ。狭い地下では、音がこもる。自分の音がよく聞こえていたし、なんだかいい音だって勘違いもしていた。少しは上手なんじゃないかって思っていたほどだ。正直、あの状態で文化祭に出なかったことは感謝しているよ。長髪男のバンドよりも酷かったかも知れない。
 機材がレベルアップをすると、腕前をつけなければ恥をかくと知り、どうせなら思いっきり恥をかきながら練習しようと開き直り、俺たちは終始ガレージのシャッターを開け放して練習という名のライヴを繰り返したんだ。初めは練習時にはシャッターを降ろすはずだったんだが、それじゃあ意味ないだろとの、ケンジの一声で決まったんだけどな。
 とにかく度胸はついた。いい練習になったよ。
 お前たちさ、面白いことを始めたんだってな。横浜の街を歩いていると、不意に声をかけられた。聞き覚えはある声だったが、すぐにはピンとこなかった。なんせ俺は、その声を聞くのはあの場所以外では初めてだったんだ。