ヨシオの元に、ナオミが声をかけにやってきた。俺はその場にいなかったんだが、手紙を渡されたそうだ。あの子の連絡先書いたから、後はご自由に。そう言ったらしいよ。
 ヨシオはすぐに電話をした。そして会う約束をする。俺はデリカシーがないから、無理を言ってついて行ったんだ。
 彼女は元気そうだったよ。ヨシオの顔を見て、笑顔を浮かべた。けれど、背後に立つ俺を見つけると、その顔をしかめた。
 戻っては来られないのか? 俺がそう聞く。うん・・・・ 彼女は俯いた。自分で決めたことなのか? 後悔はしていないのか? 俺がなにを言っても、うん・・・・ それしか反応がなかった。
 まぁいいか。俺はさ、一言謝りたかったんだ。ちゃんと気づけなくってごめんな。どんな決断をしても構わないけど、俺たちはずっと友達だからな。
 俺がそう言うと、彼女は顔を上げて笑顔を見せた。うん・・・・ その日の彼女は、それしか喋らなかった。俺に向かってはな。
 馬鹿だ馬鹿だと言われている俺だけど、少しくらいは気がきくんだ。それじゃあ俺はお先に帰るからと彼女に向かって言い、ヨシオの肩を叩いてその場を去って行ったんだ。まぁ、俺としては最高の対応だったと思っている。
 彼女は結局、転校していった。まぁ、親を騙して通っていたんだ。悪いのは彼女だよな。ナオミが強要したといっても、断ることは可能だし、親に相談すればよかっただけのことだ。それをしなかった理由は、ナオミは分からないといったが、彼女はヨシオに伝えていた。
 彼女はナオミにいくつもの借りがあったそうなんだ。親同士の関係なんて、全く関係ないという。彼女の父親は、そんなに弱くはないと、彼女にも分かっていた。半ば無理矢理にこの高校に入学していたと思い、娘を元の学校に転入させるため、大いにナオミの父親の力を利用したそうだからな。
 幼稚園の頃から、彼女はナオミが守っていたんだ。女同士の友情というか、姉妹のような関係だったのかも知れない。とにかく必至にお願いされ、断るなんてことはできなかったんだ。ナオミのためなら、それもいいかなって思ったそうだよ。それに加えて、公立の高校にも少しばかり興味があったそうだからな。
 親に逆らっていたことだけはずっと後悔していた。そして、バレてしまったからには戻らなければならない。その思いが強かったってわけだ。
 彼女は今、ヨシオの恋人未満友達以上ってな関係なんだよ。ケイコの家の地下室にはよく顔を出しているし、お互いの気持ちは俺たちにさえ透けて見えている。まぁ、あの二人はあれでいいんだろうな。とても楽しそうだから。それが一番だよ。