ナオミとケンジとの出会いは、小学校時代にまで遡る。ナオミには弟がいて、弟は野球をしていた。なかなかの名門チームのエースだった。一つ年下だったが、四年生のときにはすでにレギュラーで、五年生でエースに君臨していた。今じゃあ中学生の日本代表なんだってさ。すでにプロからも注目されているって噂だ。俺たちが戦った試合の決勝戦の相手が、ナオミの弟が所属するチームだったらしい。怪我人が多く、ボロボロだった俺たちは、結果としては負けたんだが、そこそこの善戦はしたんだよ。途切れた気持ちが、負けの原因だった。
ナオミはその日、ボロボロになったケンジに声をかけた。試合後にトイレの前の水飲み場にいたケンジに、今日は残念だったね。そう言ったんだ。するとケンジは、こう答えた。そうか? 楽しい試合だったけれどな。ナオミとしては予想外の言葉だったらしい。励ましの言葉を用意していたようだ。怪我を押しての登板だってことは、相手チームにも伝わっていた。気持ちの問題で負けたって俺たちは思っているんだが、相手チームの連中もまた、気持ちでは負けていたと感じていたようなんだ。俺たちの必死さに、特にケンジの気迫に驚き評価していた。ナオミはそんなケンジのことが気になり、一人でいる姿を見とめて声をかけたんだ。
予想外の言葉に、ナオミは固まってしまった。ケンジはそんなナオミに対し、試合見てたのか? 楽しかっただろ? そう言い、ナオミは頷いた。またどこかで会えるといいな。その後ケンジは、なぜかそんなことを言ったそうだ。
たったそれだけの出会いで、その後は一度も会っていないという。正直顔も覚えていなかったそうだ。それでも好きというか、もう一度会いたいと思っていたんだよ。ケンジっていう名前だけはしっかりと心に焼き付いていた。試合を見ていたんだから当然だよな。毎回のことだったけれど、試合中に一番名前を呼ばれるのがケンジなんだ。
そのときもう一人の男の子がトイレから出てきたんだけど、あなただったのかも知れないわね。ナオミはそう言った。その男の子が、ケンジなにやってんだよ! なんて言っていたのも覚えているそうだ。
俺にはそのときの記憶がない。決勝戦の相手のことなんて、誰一人として覚えていないよ。そんな凄い奴が対戦相手だったともな。ましてや観客の中にこんなに可愛い女子がいたと知っていたなら、違う結果になっていたのかも知れない。まぁ現実には、そんな余裕なんて少しもなかったんだけどな。
これは最近になって聞いたんだけど、ケンジはそのときのナオミを覚えていたそうなんだ。特にエースのことは強烈に覚えていたそうだよ。ケンジとナオミは、俺の知らないところで、そんな話で盛り上がってもいたそうだ。どうして俺に言わなかったんだとケンジに聞いたら、忘れていただけだと言っていたが、ナオミに聞いたら、あんたに言う必要はないじゃないなんて言われたよ。
ナオミはその日、ボロボロになったケンジに声をかけた。試合後にトイレの前の水飲み場にいたケンジに、今日は残念だったね。そう言ったんだ。するとケンジは、こう答えた。そうか? 楽しい試合だったけれどな。ナオミとしては予想外の言葉だったらしい。励ましの言葉を用意していたようだ。怪我を押しての登板だってことは、相手チームにも伝わっていた。気持ちの問題で負けたって俺たちは思っているんだが、相手チームの連中もまた、気持ちでは負けていたと感じていたようなんだ。俺たちの必死さに、特にケンジの気迫に驚き評価していた。ナオミはそんなケンジのことが気になり、一人でいる姿を見とめて声をかけたんだ。
予想外の言葉に、ナオミは固まってしまった。ケンジはそんなナオミに対し、試合見てたのか? 楽しかっただろ? そう言い、ナオミは頷いた。またどこかで会えるといいな。その後ケンジは、なぜかそんなことを言ったそうだ。
たったそれだけの出会いで、その後は一度も会っていないという。正直顔も覚えていなかったそうだ。それでも好きというか、もう一度会いたいと思っていたんだよ。ケンジっていう名前だけはしっかりと心に焼き付いていた。試合を見ていたんだから当然だよな。毎回のことだったけれど、試合中に一番名前を呼ばれるのがケンジなんだ。
そのときもう一人の男の子がトイレから出てきたんだけど、あなただったのかも知れないわね。ナオミはそう言った。その男の子が、ケンジなにやってんだよ! なんて言っていたのも覚えているそうだ。
俺にはそのときの記憶がない。決勝戦の相手のことなんて、誰一人として覚えていないよ。そんな凄い奴が対戦相手だったともな。ましてや観客の中にこんなに可愛い女子がいたと知っていたなら、違う結果になっていたのかも知れない。まぁ現実には、そんな余裕なんて少しもなかったんだけどな。
これは最近になって聞いたんだけど、ケンジはそのときのナオミを覚えていたそうなんだ。特にエースのことは強烈に覚えていたそうだよ。ケンジとナオミは、俺の知らないところで、そんな話で盛り上がってもいたそうだ。どうして俺に言わなかったんだとケンジに聞いたら、忘れていただけだと言っていたが、ナオミに聞いたら、あんたに言う必要はないじゃないなんて言われたよ。