お前たちも文化祭に出られたらよかったのにな。なんて話しかけてきたのは長髪男だった。
 知っているか? 本当は枠が余っていたからさ、お前たちを呼ぼうって話になったんだよ。どうせつまらない音楽だろうって先輩たちは言ってたけどな。なんせ女子が二人だろ? なんて笑っていたよ。言っとくが、俺はそんこと思ってないぜ。お前らを推薦したのも俺だしな。
 文化祭が終わってから一ヶ月は過ぎていたはずだ。寒さが厳しくて、息が白くなる。長髪男は、小便から湯気を立たせていた俺にそう言ったんだ。まぁ当然、奴の小便からも湯気は立っていた。
 俺たちは別に、気にしちゃいなよ。どこか路上でもいいし、演らせくれるを場所を探してるところだからさ。そのときは是非、見にきてくれよな。
 あぁ、楽しみにしているよ。奴のその言葉は背中で聞いていた。俺は手を洗い、教室に戻ろうとしていたんだ。寒い日は、教室のストーブに当たるのが幸せなんだ。
 ちょっと待てよ! なんて奴の言葉に振りむいてしまったのがいけなかった。まだ話したいことがあるんだと言い、ちょっと来いよと誘われた。正直言って、冬の屋上は最悪だ。どこか別の場所にしてほしいものだよ。
 奴はいつも通りに鍵を開け、タバコを吸う。俺はあの日以来、何度かここに来ている。しかし当然、タバコなんて吸わないよ。
 どうしてお前たちが出られなくなったか、知りたくないか? 奴はしたり顔でそう言った。興味はなかったが、頷いといたよ。
 お前のクラスにナオミっているだろ? あいつが圧力をかけたんだ。詳しい理由は分からないが、俺と先輩がお前たちの名前を出してたのが耳に入ったんだろうな。突然大声で、ケンジの奴! なんて叫んでいたんだ。後ろ姿しか見えなかったが、あれは間違いなくナオミだった。声も聞いているんだ。間違いないだろうな。
 だとしてもさ、ナオミが圧力をかけたっていうのは意味が分からないだろう。あいつにそんな権力はないだろ? 実行委員でもないんだしよ。
 お前はなにも知らないのか? やつは俺をバカにする。鼻で笑うなんて失礼だよな。
 ナオミの背中を見た五分後、慌ててうちの顧問がやって来たんだ。部室になんて滅多に顔を出さないんだけどな、真っ青な顔でやって来てさ、部員以外は絶対に文化祭に出させるなよ! それだけを言って消えて行ったんだ。
 それとナオミと同関係があるんだよ! 悪いけどさ、俺はナオミを信じるよ。
 お前は馬鹿な奴だな。奴にまで馬鹿呼ばわりされるなんて、俺は本当の馬鹿なのかも知れないって感じてしまった。高校に入学してから、俺は幾人もから馬鹿と言われている。
 ナオミがお嬢さんだってことくらい知っているだろ? ナオミの父親はな、この街の有力者なんだよ。ナオミの父親が一言なにか言えば、この学校の先生なんて即刻クビになる。政治家だってナオミの父親には逆らえないって噂だよ。
 なにが有力者だよ。そう思ったが、口にはしなかった。そんな言葉、三流映画の登場人物しか口にしないよな。下ネタ以上に恥ずかしい言葉だ。
 それが本当なら、クビにして欲しいもんだよ。俺はそう言い、屋上を出て行った。