それよりさ、なんでナオミはケンジを好きになったんだよ。一目惚れだとかは勘弁してくれよな。
 そうじゃないわよ。詳しくは聞いてないんだけど、ケンジ君はナオミの王子様なんだって。やっと出会えたって喜んでいたんだから。
 なんだよ、それ? 一目惚れよりひどいな。妄想ってやつか?
 違うわよ。それを言っていた前の日、足首を捻挫してたから、それと関係あるのかな? 聞いても教えてくれないのよ。なんで怪我をしたのかもね。けれどきっと、その怪我をしたときに、ケンジ君に助けてもらったんじゃない?
 そういう話なら、ありそうだって思ったよ。ケンジは困っている誰かを見ると、自然と手を差し伸べるんだ。嫌味がないから、誰も拒否なんてしない。ナオミには悪いが、同じような出会いでケンジに恋をした女子を俺は大勢知っているよ。羨ましいよな。俺なんてさ、転びそうになっていた女子を抱きとめたら、きゃー! なんていう悲鳴を上げられてしまったことがある。そんな話を彼女に言うと、その気持ち、よく分かるわ、なんて言いやがった。
 それが急に嫌いになったってことか? ケンジは別にユリちゃんとは付き合っていないんだし、ナオミとも恋人ってわけじゃないだろ? 自由にしてればいいじゃんかよ。それともなにか? ケンジに好きだって告白でもして振られたのか?
 それはないと思うわよ。むしろその逆みたいなのよ。もちろんナオミはケンジ君を振ったりはしていないけど、好きだって言われたって言ってたわよ。まだ返事はしていなくて、夏休み明けに言おうとしたら、ユリちゃんだっけ? その子の噂を聞いたのよ。それでショックで、タケシ君にもあんな態度を取っているってわけ。
 なんだ、そんなことか?
 そういう言い方はないんじゃない? あれでナオミは真剣なんだし、好きだって言われて物凄く喜んでいたのよ。
 いや、それはさ。きっと、ナオミの誤解だよ。好きだって言われたって言っているんだろ? どうせさ、ナオミから私のことどう思っているの? なんて聞いたんだろ?
 それのなにがいけないのよ!
 別にいけなかぁないよ。たださ、そうやって聞かれれば、ケンジは好きって答えるだろうな。この曲知ってる? 好き? なんて聞いているのと同じなんだよ。ケンジにとってはだけどな。
 このとき喫茶店の中では、俺が大好きなバンドの曲が流れていた。落ち着いた店内には似合わない、ギターやサックスやらの音が入り乱れていたよ。
 それとこれとは違うでしょ?
 違わないのがケンジなんだよ。友達同士の好きってあるだろ? 俺はケンジのことが好きだし、お前のことだって好きだよ。だけどさ、恋人として好きなのとはちょっと違うんだよ。
 なによ、それ・・・・ よくそんな恥ずかしいセリフ言えるわね。
 バッカじゃないのっていう続きの言葉を待っていたが、飛んではこなかった。