俺はふと、ナオミの友達の姿を見てしまった。なんというか、その存在に吸い込まれてしまったんだな。目が合うと彼女は、ニコッと笑って手を振った。俺も手を振った方がいいのかな? なんて考えていると、クラスの誰かが、どこまで行くんだよとツッコミを入れてきやがった。俺は自分の席を通り過ぎていたんだ。そのまま教室の壁にぶつかっていたら楽しかったんだろうな。
 俺はケンジに、ナオミとのデートの話をした。別にいいよとケンジは言った。驚いたよな。その時点でケンジはユリちゃんに惚れていたのにだよ。まったく浮気っぽい奴だ。
 結果、俺たちは四人でデートを楽しんだ。ケンジがユリちゃんを好きだってことはまだ、俺しか知らなかった。その日のデートも、知っている奴はいなかったよ。もっとも、俺もケンジも同級生との時間を楽しんだってだけのことで、恋愛感情のはらむデートのつもりではなかったんだ。それはもちろん、ナオミの友達も同じだった。そういった感情を持ち込んでいたのは、ナオミ一人だけだったんだよ。
 けれどナオミは、さすがはお嬢様だよな。TPOってやつをわきまえている。よくある映画なんかの偽物お嬢様とは違っていた。ケンジや俺が望むお友達ごっこをしっかりと演じていたんだ。ケンジに嫌われてはなるものかとの気持ちさえ、俺には感じられなかった。クラスでの態度とはまるで違っていたが、偽物感はなかったよ。映画などのお嬢さんは、所詮は成り上がり一家だろ? ナオミは皇族とも繋がりがあるっていう噂の名家のお嬢様だからな。
 まずは軽くお茶をして、その後に映画を見て、買い物をしながら街をふらふら歩いて、食事をして帰宅した。初めてのデートなんてこんなものだ。四人ともが楽しい時間を過ごしたって俺は思っている。
 ナオミたちとはその後も二度ほどデートをしたよ。それほどの違いはなく、事件もなく、楽しんだ。カラオケやボウリングで遊んだんだよ。
 だから俺には、ナオミの異変が理解できなった。なにがあったんだって、ナオミの友達に聞いててみたんだ。
 だって、噂になっているよ。ケンジ君、他にも好きな子がいるんでしょ? それなのにさ、ナオミのこと好きなふりなんてしてさ。ちょっと酷いよね。
 俺には彼女がなにを言いたいのかが理解できなった。
 あのさ、放課後に外で会うってのはどう? ここじゃない場所で話がしたいんだ。
 なによ、それ? 愛の告白なら受け付けないわよ。彼女はそういって笑った。俺もつられて大笑いだった。
 とにかく駅まで待ってるからさ。絶対に一人で来いよな。
 俺と彼女は、そんな話をトイレの前でしていたんだ。ナオミの前では話辛いからな。