いつも教室に来る人いるでしょ? ケンジっていうんだよね? ナオミはそのケンジ君が好きなんだって。
 なんだよ、またかよって感じた。ケンジのことが好きだから、好きな子がいるのか教えて欲しいなんて言葉には聞き飽きていた。好きだって伝えといてとも言われたことがある。全て適当に無視を決め込んでいる。
 好きなら自分で好きって言えばいいんじゃない? 俺から言っても意味ないでしょ?
 俺がそう言うと、その友達は、突然俺の肩を叩いた。まるで近所のおばちゃんのように力強かった。俺は思わずよろけてしまった。
 ちょっとタケシ君大袈裟すぎるよ!
 そう言いながらまた、俺の肩を叩いた。
 その友達には、授業中に回ってきた手紙で呼び出されたんだ。折りたたんだ紙に綺麗な字で、お昼が終わったら屋上の階段で待ってるね、なんて書かれていた。
 俺はその手紙が、誰から届けられたのかも知らなかった。その文字からも、手紙の絵柄からも、女子からだってことは確実だった。俺は大きな勘違いをしながらその後を過ごし、胸をドキドキさせながら屋上の階段に向かった。
 俺たちの学校では、屋上へ出ることは禁止されていた。そもそも鍵がかかっている。まぁ、勝手に開けている奴もいるんだが、それはあまりいいことではないよな。
 屋上へと出るドアの前で、俺はその手紙の相手を待っていた。そこはほんの少し広い空間になっている。掃除用具が入っているロッカーなんかが置いてあり、男女の密会にピタリの雰囲気なんだ。まぁ、男同士の密会でも構わないんだけどな。
 ナオミの友達は、一人でやってきた。その顔に、緊張はなかった。俺だけが勘違いをしているんだと気がついたよ。
 ケンジ君とナオミを誘ってさ、四人でデートしようよ。なんて言葉を、その友達は明るく言い放った。
 なかなかに面白くて、可愛い子だと思ったよ。けれど困ったよ。俺はモテることに慣れていない。
 俺のこと、好きなのか? いきなりそんなことを言ったんだ。馬鹿だって、反省している。
 しかしその友達は、お腹を抱えて笑い出し、タケシ君って面白いこと言うのね、なて言うんだ。ほんの少しだけど、惚れそうになった。その日から好きになったのは間違いないよ。今では俺の、大事な友達でもある。