あんたの友達にさ、タケシっているでしょ?
 登校したばかりの俺に、ナオミがそう言った。
 タケシって、俺の名前だけど?
 俺がそう言うと、ナオミは顔を真っ赤にして、あんたなわけないでしょ! そう言って俺の頭を引っ叩いたんだ。俺のノートを使ってな。
 俺は教室で、カバンから教科書やらノートやらを引っ張り出していた。まさか自分のノートで引っ叩かれるとは思いもしなかったよ。しかも、ナオミにな。俺は思わず、ふざけんなよ! なんて叫んでしまった。まったく、女子の前で恥ずかしいことさせるなっていうんだ。
 なによ! 私が悪いって言うの? あんたがあの人と同じ名前なのが悪いんでしょ!
 ナオミはそう言って、もう一度俺の頭を引っ叩いた。
 ちょっとナオミ、なにしてるのよ? タケシ君のことじゃなかったの? そんな言葉が少し離れた席から聞こえてきた。なんのことを言っているのか、まるで意味が分からないよな。
 こいつがタケシ?  冗談じゃないわよ! 私のタケシ君はもっと格好いいんだから! あんたね! 勝手にタケシを名乗るんじゃないわよ!
 ナオミはもう一度俺の頭を引っ叩こうとその手を振りかざした。俺だって馬鹿じゃないからな、そう何度も同じ攻撃にはやられないんだ。ナオミの手首を、頭上で捕まえた。
 ちょっと! 痛いじゃないのよ!
 あのなぁ、お前一体なんなんだよ! 人のノートでバシバシ頭叩きやがってよ!
 俺はもう片方の手で自分のノートを奪い返した。正直このとき、俺はナオミを殴ってやろうかと思っていたよ。女子だからって、やり過ぎなんだよ。
 もうやめなよ、ナオミ! タケシ君のこと、好きなんじゃなかったの? 誰の声かなんてどうでもよかった。ただその言葉にイラっとし、声の飛んでくる方向に顔を向ける。
 はぁ? 俺とナオミの言葉が重なったよ。その行動も重なっていた。俺と同時に、ナオミもその声に顔を向ける。
 こんな奴好きなわけないわよ! ナオミがそう言った。
 こんな奴好きなわけないだろ! 俺はそう言ったよ。
 真似すんなよ! の言葉がまた重なる。
 離れた席から聞こえる笑い声に、俺は恥ずかしさを覚えたよ。なにを朝っぱらから・・・・ そう思ってしまったんだ。これじゃあまるで仲良しだよな。