タケシにはベースがいいんじゃないかな? ベースとドラムって夫婦の関係性だからさ、二人にはお似合いだよ。ヨシオのそんな言葉に、冗談じゃないよ! と俺とケイコの言葉が重なった。
 まぁ、この二人は夫婦というよりは漫才だな。ケンジがそう言うと、カナエが口を挟んだ。夫婦漫才かな? その言葉を受けて、俺とケイコの言葉が再び重なった。なんでそうなるんだよ!
 やっぱり二人はいいパートナーになれるよ。それにさ、タケシはこの中で一番背が高いだろ? 指も細くて長いしさ、ベースが一番様になるんだよ。
 そんなもんか? まぁ、俺は楽しければなんでもいいよ。そう答えたよ。するとヨシオはこう言ったんだ。僕の意見ではあるけどさ、ベースが一番楽しいよ。ちょっと地味だとか言う奴もいるんだけどさ、そんなの嘘だよ。なんでも許される自由な楽器だって僕は思うよ。
 ヨシオが言う自由な楽器っていう言葉が俺をその気にさせたのは言うまでもないだろ?
 それじゃあ私がギター? カナエがそう言った。ヨシオは真剣な表情でカナエを見つめて頷いた。不安そうな声を出すカナエに、その場の空気が静まっていたよ。俺もヨシオも、カナエが不満を口にするんじゃないかって感じていたんだ。ケンジとケイコはなんだかニヤニヤしていたけれど、その理由はすぐに分かったよ。
 本当に? すっごく嬉しい! ほんの少しの沈黙の後、カナエは笑顔を弾けさせた。私さ、ずっとギターに憧れていたんだ。いつか弾いてみたいなって、ずっと思っていたの。私のお父さん、学生の頃ギター弾いていたんだよね。家の押入れには今でもギターがあるんだよ。ってそんなことみんなも知ってるか? とにかく私、ギターが弾けてすっごく嬉しい!
 そういえば、カナエの家にはもう一本のギターも置いてあったなと思い出したよ。プラスティック製のアンパンマンモデルだ。
 こうしてそれぞれのパートが決まった。